コラム

独立をめぐるカタルーニャ「内戦」の勝者と敗者 36歳女性弁護士が大躍進した語られない真実

2017年12月23日(土)22時30分

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上のグラフは所得階層から分析した独立への賛否の割合である。所得が増えるにつれ、独立を支持する人が多くなる。独立派は「独立派には教育レベルの高い人が多い」と説明する。がしかし、ロンドン出身で28年前からバルセロナで暮らす独立反対派のコンピュータープログラマー、チャールズ・アブレットさん(55)はこう解説する。

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チャールズ・アブレットさん(筆者撮影)

「地中海経済圏に位置し、産業の集積がある豊かなカタルーニャ州には1950~60年代に南部アンダルシア州など他の地方から多くの労働者がより良い仕事を求めて大量にやって来ました。こうした労働者階級は、独立運動はカタルーニャ人の優越主義で、我々を排除するものだと猛烈に反発しているのです」

アンダルシア出身で、努力して完璧なカタルーニャ語をマスターしたアリマーダス氏はこうした労働者階級の声を代弁してくれる頼もしいヤング・プロフェッショナル。TV映りも抜群だ。冴えないプチデモン前首相よりアリマーダス氏の方が絵になる。

シウダダノスの得票数は110万。プチデモン氏がカタルーニャ経済の底辺を支える労働者の声を無視して独立に突き進むのは間違っている。アリマーダス氏は「選挙に勝利したのは私たちよ」と宣言したが、彼女が州首相に就任するシナリオはない。シウダダノスを無条件で支持できるのは今回の選挙で議席を大幅に減らした国民党だけだからだ。

次の国政選挙で国民党政権が終焉を迎えない限り、膠着状態を解消する手立てはない。カタルーニャでは独裁者フランコの死後、カタルーニャ語と歴史・伝統・文化の教育が徹底され、若い世代は独立を支持する傾向が強まっている。長期的に見るとカタルーニャは確実に独立に向かっている。

スペイン国家警察の介入で約900人の負傷者を出した先の住民投票と州議会選の結果を見ても独立派が後退することは考えられない。独立派の得票率はいずれ50%を超えるだろう。その前にスペイン中央政府は独立派弾圧ではなく、自治権拡大や連邦制への移行を含めた抜本的な話し合いに舵を切るべきだ。

アブレットさんは深いため息をついた。「解決策はありません。カタルーニャは完全にカオスに陥っています」。カタルーニャに進出する日系企業89社の憂鬱もますます深まる。独立運動の敗者は、イギリスの欧州連合(EU)離脱と同様、世界展開するグローバル企業。ナショナリズムがネオリベラリズム(新自由主義)を追い詰める。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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