コラム

総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長」案は、なぜ避けて通れない議論なのか?

2024年05月15日(水)11時18分
国民年金の納付期間延長

TAKASUU/ISTOCK

<国民年金の納付期間を現状の60歳から65歳までに延長する制度改正案。なぜこのタイミングで検討されているのか>

国民年金の納付期間を65歳まで延長する案が出ている。多くの国民が勘違いしているのだが、平均的なサラリーマンにとっては関係のない制度改正である。だが、間接的には全国民共通の課題でもあり、何を目的にした制度改正なのか理解しておいたほうがよいだろう。

日本の公的年金は全国民共通の国民年金と、サラリーマンだけに適用される厚生年金の2階建てとなっている。今回、議論の対象となっているのは国民年金のほうである。国民年金は20歳で加入して、40年間保険料を納める仕組みとなっており、60歳で納付が終了する。これを5年延長して65歳までにしようというのが主な変更点である。

現在、企業で働くサラリーマンは、本人が希望すれば65歳まで継続雇用することが義務付けられている。老後資金に余裕がある一部の裕福な人を除いて、多くのサラリーマンが65歳まで働く可能性が高いので、厚生年金を通じて自動的に国民年金の保険料を納めることになる。

従って国民年金の納付が65歳まで延長になったとしても、もともと65歳まで働いて保険料を納める予定だった人にとって負担増にはならない。

5年間の納付延長で100万円ほどの負担増

純粋な意味で負担増となるのは60歳で国民年金の納付が終了する自営業者と、60歳で引退し、その後は働く予定のないサラリーマンである。この人たちは、60歳以降は保険料を納めないはずだったので、延長になった分だけ納付額が増える。

現在、国民年金の1カ月当たりの保険料は1万6980円であり、5年間納付が延長されると総額100万円ほどの負担増だ。

では、なぜこのタイミングで国民年金の納付期間延長が検討されているのだろうか。その理由は、多くの国民にとって聞きたくないことかもしれないが、ストレートに言うと、今後、深刻化する「老後の貧困問題」に対処するためである。

国民年金だけに加入する被保険者というのは、もともとは自営業者が想定されていた。自営業者は規模が小さいとはいえ実業家であり、基本的に自身の生計は自身で立てる能力があると見なされている。

だが近年は、純粋な意味での自営業者ではなく、アルバイトを主な収入源にしていたり、厚生年金に加入していない事業所で働く非正規社員など、限りなくサラリーマンに近い国民年金加入者が増えている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、成長支援へ金融政策を調整 通貨の安定維

ビジネス

スイス中銀、リオ・ティント株売却 資源採取産業から

ワールド

ドイツ外相の中国訪問延期、会談の調整つかず

ビジネス

ヘッジファンド、AI関連株投資が16年以来の高水準
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼稚園をロシアが攻撃 「惨劇の様子」を捉えた映像が話題に
  • 3
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 4
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story