コラム

日本の「地方」にコストコが次々と出店する訳...かつて大型スーパー出店に猛反発した地方部で何が起きている?

2023年06月14日(水)18時19分
コストコのロゴ

JIM YOUNGーREUTERS

<近隣からも多数の客を呼び込む力を持つコストコだが、急激な人口減少に悩む地方経済を救う効果は期待できるのか?>

全国の自治体で「コストコ」を誘致する動きが活発になっている。こうしたハコモノをテコにした地域おこしは、昭和の時代から連綿と続いてきたものの、あまりうまくいっているとは言えない。今回も単なる出店ブームに終わらないよう工夫が必要である。

コストコはアメリカ企業であるコストコ・ホールセールが運営する会員制の倉庫型小売店である。約5000円の年会費を払った人だけが入店できるシステムで、広い店内には商品がうずたかく積まれている。大量の商品を安く購入するアメリカ流ショッピングが楽しめる、日本では数少ない小売店といえるだろう。

会員制であるため、コストコ利用者のロイヤルティーは高く、遠方の店舗でもわざわざ買い物に行く人が多い。このためコストコが出店すると、当該地域の住民のみならず、近隣から多数の顧客が押し寄せてくる。

地方は急激な人口減少で商圏消滅の危機に瀕している。大量の顧客を動員できるコストコを誘致することで、地域の地盤沈下を何とか防ぎたいとの狙いがあると思われる。コロナ禍以降、千葉県木更津市、熊本県御船町など各地で出店が相次いでおり、群馬県では前橋市に続いて明和町に県内2店舗目がオープンした。今年後半から来年にかけても各地で出店が予定されている状況だ。

地域の商店はもはや消滅

昭和の時代には、大型店舗が出店を表明すると地元が猛反発して頓挫するという光景がよく見られた。かつての日本には地域の商店街を守るため、大規模小売店舗法(いわゆる大店法)という法律があり、大型店舗の出店は厳しく規制されてきた。

当初、国内のスーパー大手は米ウォルマートのような大型店舗を活用した事業展開を思い描いていたが、規制によってそれがかなわず、法の網をかいくぐる形で、小規模店舗を多数出店するコンビニ事業に活路を見いださざるを得なかった。

結果的にコンビニは大成功したが、地域の商店街はスーパーではなくコンビニに駆逐されてしまい、しかもコンビニは運営コストが高いため安値販売ができず(コンビニは原則として定価販売だった)、消費者も高額な買い物を強いられた。今になって自治体が積極的に外資系の大型店舗を誘致しているのは、守るべき商店がもはや消滅してしまったからにほかならない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story