コラム

「日本ネット企業の雄」だった楽天は、なぜここまで追い込まれた? 迫る「決断の日」

2023年05月30日(火)17時49分
楽天銀行の上場

ISSEI KATO-REUTERS

<かつては極めて良好な財務体質を誇り、市場の期待も高かった楽天だが、「最後の軍資金」で立ち直れるかどうかの瀬戸際に立たされている>

楽天が約3000億円の公募増資に踏み切った。同社は携帯電話事業の不振で4期連続の最終赤字を計上しており、財務が急激に悪化している。資金を捻出するため楽天銀行を上場させたものの、親子上場に当たることから、市場の評判はすこぶる良くない。

今回の増資でも携帯電話事業が軌道に乗らなかった場合、同社は重大な決断を迫られることになるだろう。

楽天は、日本のネット企業の雄と言われ、2000年に上場(店頭公開)を果たした際には、当時としては過去最高額の資金を調達している。財務体質も極めて良好で、上場直後の00年12月期における自己資本比率は何と95.2%もあった。

ネットバブルの崩壊によって株価は一時、下落したものの、その後は順調に時価総額を増やし、15年には株価が2400円目前まで上昇。豊富な資金を背景に次々と諸外国のネット企業を買収し、市場の期待は高まったが、ここが成長のピークとなった。

相次ぐ買収がうまく収益に結び付かず、17年12月、同社は携帯電話事業への参入を決断した。これまで同社にはネット企業として高い成長期待が寄せられていたが、携帯電話は巨額の設備投資を必要とする典型的なオールド・ビジネスである。

日本の携帯電話市場は人口減少から縮小が予想されており、しかもNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社による寡占状態が続く。経営学的に見て新規参入が困難であることは明らかだ。

社員の50億円横領事件も

同社トップの三木谷浩史氏は、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)出身で、ハーバード大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得した人物であり、この状況を理解できないはずがない。それにもかかわらず携帯電話事業への参入を決めたことから、市場関係者は「楽天はよほど追い込まれている」と判断せざるを得なかった。

実際、携帯電話事業は先行投資ばかりがかさみ、軌道に乗っていない。他事業の黒字を携帯電話事業が食いつぶす状況が続く。基地局の設置を急ぐあまり社内管理体制も追い付いておらず、グループ会社の社員が50億円もの金額を横領するという刑事事件まで発生した。株価もピーク時と比較すると4分の1まで下落している。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story