コラム

NTTのドコモTOB、「菅首相」よりはるかに重大な「動機」とは?

2020年10月14日(水)11時59分

ISSEI KATOーREUTERS

<携帯電話料金の引き下げを求める菅政権への対応という見方もできるが、もっと切迫した理由がある>

NTTが子会社のNTTドコモを4兆円の資金を投じて子会社化するなど、大規模な株式公開買い付け(TOB)を実施する企業が増えている。グローバル市場ではあまり許容されない日本独特の親子上場の解消という目的もあるが、最大の理由は、国内市場が今後、急激に縮小することへの危機感である。大規模なTOBの相次ぐ実施は、日本経済が本格的な縮小モードに入ったことを示唆している。

NTTは、ドコモの株式を66.21%保有しているが、残りの株式を市場で買い付け100%子会社にする。総額は4.3兆円になる見込みで、国内のTOBでは過去最高額である。菅新政権が携帯電話料金の引き下げを強く求めているタイミングなので、子会社化は料金引き下げに対応した動きとの見方もある。

確かに引き下げ要請への対処という側面があることは否定できないが、巨額のTOBについて短期間で意思決定することは現実的に難しい。背後にはもっと大きな理由があると考えたほうが自然だ。

NTT以外にも大型のTOBが増えている。今年9月にソニーが約65%の株式を保有する金融事業持株会社ソニーフィナンシャルホールディングスを完全子会社化したほか、8月には総合商社の伊藤忠商事が、子会社のファミリーマートに対するTOBを行っている。経営危機に陥った東芝も上場子会社3社を全て完全子会社化した。

日本市場のパイが縮小

親会社と子会社が同時に株式上場するというのは親子上場と呼ばれ、実は日本独特の商習慣である。親会社と子会社の間には利益相反の可能性があるため、諸外国ではこうした上場は許容されないケースも多い。各社が子会社との一体化を進めているのはグローバルスタンダードに合わせるという意味合いもあるのだが、最も大きいのは縮小する国内市場への対応である。

日本は今後、急ピッチで人口減少が進み、国内市場は大幅な縮小が予想されている。海外市場に活路を見いだすことができた企業は問題ないが、全体としては少数派だろう。

国内市場が拡大しているフェーズでは、経済のパイが増えるので、2番手、3番手の企業も成長できる。だが縮小市場では基本的にパイの奪い合いとなることから、できるだけ企業規模を大きくしないと生き残りが難しくなる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ次期財務相、通貨高抑制で中銀と協力 資本の動き

ビジネス

三菱自、30年度に日本販売1.5倍増へ 国内市場の

ワールド

石油需要、アジアで伸び続く=ロシア石油大手トップ

ワールド

イタリアが包括的AI規制法承認、違法行為の罰則や子
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story