コラム

Facebookの仮想通貨リブラに、各国の通貨当局はなぜ異様なまでの拒絶反応を示しているのか?

2019年08月14日(水)16時55分

写真はイメージ CHENG FENG CHIANG-iStock

<アメリカが「国家安全保障上の問題」とまで言うリブラ。マネロン対策でリブラの危険性を指摘する声があるがこれは本質ではない。各国の通貨当局が恐れているのは、リブラが流通することで中央銀行が持つ巨大な利権が脅かされることだ──>

フェイスブックの仮想通貨「リブラ」に対して、各国の通貨当局が過剰とも言える反応を示している。これはリブラが持つ潜在力の大きさの裏返しであり、ある意味でリブラが「ホンモノ」であることの証左といってもよい。

筆者はリブラやビットコインといった仮想通貨への投資を強く推奨する立場ではないが、リブラが突きつけた現代の通貨制度に対する疑義について、わたしたちは真摯に受け止めるべきと考えている。

以下では、なぜリブラに対して各国が異様な警戒感を示すのか、現代の通貨制度のどこに問題があるのか、可能な限り簡単に解説したい

米国は「安全保障保証上の問題」とまで言及

リブラは、米フェイスブックが2020年のサービス開始を予定している仮想通貨である。リブラはビットコインと同様、ブロックチェーンの技術を使って開発されるが、ビットコインとの最大の違いは、ドルやユーロなどの既存通貨によって価値が担保されている点である。

リブラはリブラ協会と呼ばれるコンソーシアムが管理するが、このリブラ協会がドルやユーロといった既存の法定通貨を保有し、これを裏付けに仮想通貨を発行する。このため、価値が毀損しにくく、価格変動も、各主要通貨のバスケットの範囲内での動きになるので、ビットコインのような乱高下は発生しないと考えられる。

IMF(国際通貨基金)は、主要通貨をバスケットにしたSDR(特別引出権)という制度を持っているが、リブラは限りなくこれに近い仕組みといってよいだろう。主要通貨をベースにしているという点では、保有するドル資産などを裏付けに民間銀行が通貨を発行している香港ドルとも似ている。

現在、フェイスブックには、全世界で27億人の利用者が存在しているが、ここに価格変動が少ない安定的な仮想通貨が登場してくると、場合によっては国境をまたぐ巨大な通貨圏が出現する可能性がある。このため、各国の通貨当局はリブラに対して、過剰なまでの反応を示す結果となっている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を

ワールド

英独首脳、自走砲の共同開発で合意 ウクライナ支援に

ビジネス

米国株式市場=S&P上昇、好業績に期待 利回り上昇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story