コラム

トヨタのディーラー網見直しから見えてくる日本経済の新しい姿

2018年10月02日(火)13時00分

国内では2000年以降、軽自動車の割合が急上昇したが、これは労働者の実質賃金が低下する中、より安いクルマを求めた結果である。

これに加えて、ライフスタイルが多様化していることから、地域によって売れ筋の車がバラバラということも珍しくなくなった。全国一律の販売戦略を実施することの効率の悪さが目立つようになっている。

こうした事態をうけてトヨタは販売戦略の抜本的な見直しを決断。2025年をめどに、現在60種ほどある車種を半分に絞り、すべての販売店で全車種を販売できるようにする。

成長から成熟へ、所有から利用へ

今後はいよいよ総人口の減少が始まることから、自動車はますます売れなくなる可能性が高い。さらに追い打ちをかけるのがカーシェアリングの普及である。

1台の自動車を複数の利用者が共同で使うカーシェアリングの市場は、今後、急速に拡大すると予想されている。

これまで多くのカーシェア事業者が月額基本料金を設定していたが、最近では基本料金を無料にする事業者も現れている。固定料金がなくなれば心理的負担が一気に軽減するので、利用者はさらに増えるだろう。カーシェアの台数はまだ数万台と自動車メーカーを脅かすレベルではないが、サービスが普及した分だけ新車の販売台数にはマイナスの影響が及ぶ。

トヨタはすでにカーシェアリング事業に本格参入する方針を固めており、全国の販売店網をカーシェアの営業拠点にする準備を進めている。高齢者の見守りなど地域密着型サービスの展開も視野に入れるとのことなので、近い将来、自動車販売店の姿は大きく変貌することになるだろう。

一連の変革は、戦後のトヨタとしては最大級の決断といってよい。

トヨタがこれだけの決断を行ったということは、「成長と所有」を前提にした経済の仕組みが根本的に変わったことを意味している。日本社会は名実ともに「成熟と利用」の時代に向かって動き始めている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネスなどの分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来』 (幻冬舎新書)など著書多数。

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