コラム

いざなぎ景気を超える好景気と言われるのに、実感が湧かない理由

2017年12月19日(火)13時25分

写真はイメージです。 F3al2-iStock.

<「失われた20年」の間の日本の損失は大きい。日本が年収......当然のこと>

2017年7~9月期のGDP(国内総生産)は7四半期連続でプラス成長となり、メディアの見出しには「いざなぎ景気超え!」といった勇ましいタイトルが並ぶ。だが好景気という実感が湧かないという声を耳にすることも多い。本当に日本経済は好景気なのだろうか、仮にそうだとして経済統計と生活実感の乖離はなぜ生じるのだろうか。

「いざなぎ景気超え」はあくまで長さ

先日、朝日新聞が主要企業に対して行ったアンケート調査は、現在の経済状況を色濃く反映している。景気が拡大していると回答した企業は9割に達したが、「景気拡大を実感できるかと」との質問に対しては半数弱の企業が「実感と合わない」と回答している。これは企業に対するアンケートだが、消費者に対する調査でも結果はほぼ同じだろう。

「景気拡大」「いざなぎ景気超え」といったメディアの報道は、たいていの場合、内閣府の月例経済報告がベースになっている。内閣府では毎月、各種の経済指標を総合した景気動向指数を公表しているが、これが上昇傾向にあれば景気は拡大していると判断される。だが、ここで議論されるのは主に景気拡大の「長さ」であって「程度」ではない。

戦後有数の好景気であった「いざなぎ景気」は、1965年10月から1970年7月まで57カ月間継続した。現在の好景気は2012年11月から継続しており、今年の9月時点において58カ月間継続した。「いざなぎ景気超え」というのは、この部分が根拠となっている。

しかしながら、オイルショック前の日本経済と今の日本経済で、成長率そのものに大きな違いがあるのは当然のことである。1965年から1970年にかけての実質GDP成長率は単純平均で約10%だが、2012年から2017年については、2017年が2%を超えると仮定してもせいぜい1.3%程度である。

消費者は、基本的に前年より稼ぎが増えたか、あるいは使えるお金が増えたかという部分で景況感を判断するものだし、こうした考え方はGDP統計の本質にも合致している。所得が増えていないのであれば景気が拡大していないと考えるのは、至極まっとうなことといえる。景気拡大の長さばかり強調するのはあまり意味がないといってよいだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 2

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子供を「蹴った」年配女性の動画が大炎上 「信じ難いほど傲慢」

  • 3

    あまりの激しさで上半身があらわになる女性も...スーパーで買い物客7人が「大乱闘」を繰り広げる動画が話題に

  • 4

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 5

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 5

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 9

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story