コラム

米軍撤退のアフガニスタンで次に起きること

2021年08月04日(水)12時00分

アフガニスタンから帰国する米軍(2020年12月) JOHN MOORE/GETTY IMAGES

<ライバルが去ってユーラシアは中国とロシアの天下とかき立てるロシアメディアだがアメリカに代わり地域諸国の餌食になる可能性も>

バイデン米大統領の勇断で、アフガニスタンにいた2500人の米戦闘部隊は、7月には撤収をほぼ完了した。

2001年に米軍介入で政権から追われたイスラム原理主義勢力タリバンは巻き返しの勢いで、既に国土の85%を制圧したと称する。約20万人のアフガニスタン政府軍はもとから実力を欠き、これからは武器弾薬の補給と兵士への給料支払いもおぼつかなくなる。

このままでは首都カブールでも、1975年のベトナム戦争でのサイゴン陥落時の外国人脱出のような悲劇が起きる。避難できないアフガニスタン政府関係者や米軍への協力者たちは戦々恐々だろう。隣国タジキスタンでは既に、10万人の難民受け入れ準備を進めている。

タリバンの主流は、パキスタン軍の支援を得てきた。パキスタンは、アフガンの青年を教化して送り返し、インドとの係争地域カシミールに北方から圧力をかける算段なのだ。タリバンは今回、十分な補給を受けられるか不明だが、窮すれば中国、あるいはロシアと手を握ってでも全土制圧へと動くだろう。

「米軍の撤退でユーラシアは中国、ロシアの天下」と、ロシアの新聞は書く。アフガニスタン、中央アジアは地政学の大家ハルフォード・マッキンダーがかつて「ハートランド(中心地)」と呼び、ここを制する者はユーラシア全部を制すると言った。

しかしユーラシアの経済力は海と接する周縁部に集中していて、ハートランドを「制して」みてもお荷物になるだけ。この地域の諸国は海千山千で、言い寄る大国を張り合わせて骨の髄までしゃぶり尽くす。

中ロ両国は7月14日、タジキスタンでの上海協力機構(SCO)外相会議で米軍に「責任ある撤退ぶり」を示すよう求めたが、それはアメリカに代わり自分たちがしゃぶられる運命を見越しているからに違いない。

ロシアは、アフガニスタンと国境を接するタジキスタン、ウズベキスタンの安全保障を助けなければ、同盟国・準同盟国としての信頼を失う。中国はタリバンと手を組んででも、新疆ウイグルの独立運動分子がアフガンを根城にするのを阻止しなければならない。これまでは米軍がこの地域にまで手を出していることを批判していればポイントが稼げたが、これからはそうはいかない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏小売売上高、9月は前月比0.1%減 予想外

ビジネス

日産、通期純損益予想を再び見送り 4━9月期は22

ビジネス

ドイツ金融監督庁、JPモルガンに過去最大の罰金 5

ビジネス

英建設業PMI、10月は44.1 5年超ぶり低水準
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 8
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 9
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story