コラム

賃金格差の解消こそが女性の雇用を後押しする

2015年08月03日(月)16時40分

 というのも、正規労働者の数字は全体として減っていますから家計全体で見れば手取りは年を追うごとに低下傾向にある中で、女性の非正規労働者増が見てとれるためです。夫の賃金減を補うために「いたしかたなく」パートに出ているのではなかろうか。生活に追われているだけに、そこに自分の能力を生かせるという発想が入り込むが余地はなく、切実な経済状態からなのではないか。

 事実、総務省の発表した家計調査報告書の勤労者世帯の収支をみると(2015年6月の二人以上の世帯のうち勤労者世帯)、世帯全体の収入の約8割を占める世帯主の定期収入は17カ月連続して実質減少しています。一方、全体の収入の約1割程度にしか満たない配偶者の収入はこの3か月連続の増加、全体の収入の2%に過ぎない他の世帯員の収入も6か月連続の増加となっています。つまり、夫の定期収入減が続く中、妻や子供などのパート収入で家計をやりくりしている状況がうかがえるわけです。

 さて、非正規労働関連に留まらず、惨憺たるILO条約の日本の批准状況について。2015年7月現在、189のconvention(条約)と6のprotocol(協約)の批准状況がILOのHP上で公表されています。日本は今のところ49本の採択ですから採択率は25.9%。ILO加盟国は186か国あり、主要国の採択数は最多のスペイン133を筆頭にフランス126、以下欧州各国が続きます。傾向として、『高福祉・高負担』の欧州で条約批准数が多く、『低福祉・低負担』の米国、あるいは中国・インドのような新興国では少ないとくっきり分かれています。

 前回、消費税のお話もしましたので、それに絡めて言えば、消費税増税の理由として高福祉が必ず持ち出されます。そうした指摘が所詮詭弁に過ぎないと言わざるを得ないのは、仮に欧州型の『高福祉・高負担』国家を目指すのであれば、増税前の社会体制作りとして、取りあえずは社会正義・福祉を念頭にしたILO条約などの批准数を欧州並みに引き上げてから、というのが道理のはず。にもかかわらず、そうした主張ほとんど聞こえてこず、批准に前向きな動きもないためです。

 あるいは米国と同じ『低福祉・低負担』でいくならば、消費税はなしとなるはず。ラフな話ではありますが、①国家としてのグランドデザインを決めた上で、②そのための税制、社会福祉制度などの体制を整えてから③労働者派遣法などの改正といった順番が妥当で、①は表向きには高福祉・高負担を謳いながら、実は伴わず福祉は削減方向、②はスルーで③だけに猛進するのですから、これでは一般国民が疲弊してしまいます。制度・政策上の矛盾は弱者へしわ寄せとなりやすく、これでは国際労働基準が理想とする経済成長と社会福祉が手を携えるような「公平かつ包摂的で公正な社会の構築」とはかけ離れてしまいます。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:替えがきかないテスラの顔、マスク氏後継者

ワールド

ウクライナ議会、8日に鉱物資源協定批准の採決と議員

ビジネス

仏ラクタリスのフォンテラ資産買収計画、豪州が非公式

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story