コラム

社会学者・上野千鶴子に問う他者への想像力

2021年03月30日(火)18時00分

自分とは異なる人々への想像力

在宅診療に取り組んでいる医師からこんな話を聞いたことがある。東京都でも119番通報は年々増えているが、押し上げている最大の要因は75歳以上の人々からの通報だ。問題はその中身である。その中には、病院搬送が必要ないか、軽い症状の人が少なくない数含まれている。医療的なケアは搬送された病院でもできるが、根本的な問題解決をするには当人の社会的背景まで診ないといけない。そうしなければ、何度でも119番が繰り返されるのだ、と。

人生の最期をどう選ぶかは重要な問題であり、議論を喚起することには賛同するが、選択に行き着く以前に、多くの困難を抱えている人も存在しているのが社会の現実である。

今、問われているのは自分とは異なる人々への想像力ではないか。自分とは違う選択をする人々を、あたかも社会にとって不合理な選択をする人々、あるいは理解できない存在と切り捨てるような物言いは肯定できないと私は思う。たとえ、その論法でケンカに勝てたとしても。

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プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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