コラム

クリスマスに急転直下、漁業問題も先送りのブレグジット合意の危うさ

2020年12月25日(金)19時00分

それに、最初から存在して、目の前のブレグジットの交渉を前に忘れかけていた根源的な問いは、これから一層浮き出るかもしれない。「そこまで自発的に離婚したがったイギリスに親切にして、こちらに何の得があったのか」「極右を活気づけたり、追随したがるものが出てきたりして、EUの屋台骨をゆるがしかねないのではないか」と。

中長期的な展望で見るならば

結局、合意はどのような内容かわからないと判断のしようがないし、実際にどのような運用がなされるのか、しばらく見てみないとわからないだろう。

イギリスに関税ゼロという恩恵を与えたといっても、実は関税はあまり今の世界、特に先進国ではあまり大きなウエイトを占めていない。大事なのは非関税障壁、つまり世界のルールづくりのほうなのだ。誰がイニシアチブをとるか、世界規模で競争しているのである。

世界のルールは誰がつくるのか、ルールを制するものが、ビジネスを制すとすら言える──という現代の原則に立ち返れば、英国に対して懲罰的な措置をとらず、EUの勢力圏内に留めておかせたほうが、EUにとっては長期的な利益になるのかもしれないが......そういう大きな戦略は、わかりにくいし見えにくいだろう。

さらに、収まる気配のないコロナ禍で、平和と日常が脅かされているからこそ、目に見えやすい効果が期待されている時代なのも、不安材料である。

バルニエEU首席交渉官は、1月1日には「多くの市民や企業にとって」「本当の変化」があると強調した。それは事実に違いない。

そしてEUは、最も影響を受けたセクターを支援するために50億ユーロを予算に計上している。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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