コラム

認知戦で狙われているのは誰なのか?──影響工作の本当の標的

2025年09月03日(水)17時58分

多くのナラティブはSNSで話題になり、それがまとめサイトなどに取り上げられ、そこから一般メディアに取り上げられる、といった段階を踏む。

ブレイクダウン・スケールやウォードルの拡散のトランペットでは、その最後の段階に大手メディアを位置づけている。

しかし、なぜか中露からの認知戦だけは、検知するやいなや即座に専門家が警告を発し、被害の有無すら把握していないのに、メディアが取り上げ、政治家がコメントするようになっている。

攻撃側のロシアからすると、非常に効果的にナラティブやプロパガンダを拡散できることになる。

ロシアにとって、メディア、専門家、政治家は格好のターゲット、Frequently Targeted Sectors=FTSなのだ。

ロシアで認知戦を実行していたSDAという企業から内部文書が大量に漏洩した事件が2024年に起きた。

その文書にははっきりと、彼らの活動の評価基準はいかに相手国のメディアや専門機関に取り上げられるか(つまり検知され、暴露されることを狙っていた)であったと書かれていた。

ロシアのナラティブやプロパガンダだと暴露されたら誰も信じないではないだろう、と思うかもしれないが、多くの人に届けば一部は信じてしまう。

前回の参院選ではテレビなどがファクトチェックを多く取り上げたが、それが逆効果だった可能性があることを東洋大学の小笠原教授が調査の結果明らかにしている。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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