コラム

検索結果をプロパガンダと陰謀論だらけにするデータボイド(データの空白)脆弱性

2024年04月08日(月)15時10分

5年間ほとんど放置されてきたデータボイド脆弱性

データボイド脆弱性には5つの対応があることが指摘されている。

1.ニュース速報
大きなニュースが速報で流れると、それを反映した検索が大量に発生する。しかし、その検索に対応したコンテンツがほとんどない場合も多く、ここにデータボイド脆弱性がある。あまりニュースに登場しない地名が現れる場合は特にそうだ。

2.戦略的新用語
新しい言葉を作ったり、過去に使われていてもあまり知られていなかった言葉を使うこともある。当然ながら、その用語で検索しても結果はほとんどないため、操作が可能となる。

3.時代遅れの言葉
ほとんど使われなくなった言葉も利用できる。使われなくなっても言葉は検索エンジンに残る。ニュース速報のように爆発的に伸びることないが、たまに検索する人を騙すことはできる。

 
 

4.言葉の組み合わせ
単語だけではなく、言葉の組み合わせでもデータボイドが生まれる。2018年の夏にバチカンで性的問題のスキャンダルが起きた際、「バチカンの性的虐待」と「バチカンの小児性愛者」と検索すると全く異なる結果が出ていた。

5.問題のある検索
前述の「ホロコーストはあったのか?」や「オバマはクーデターを計画しているか?」はまっとうなサイトは取り上げないテーマであるため、陰謀論サイトが上位に来やすくなっていた。データボイド脆弱性が生まれやすくなっている。

データボイド脆弱性の問題は5年前のデータ&ソサエティ研究所の「DATA VOIDS Where Missing Data Can Easily Be Exploited」で明らかになったが、その後ほとんど研究されていない。正確にはデータボイド脆弱性に言及する研究はあったが、データボイド脆弱性そのものを調査研究したものはないようだ。検索エンジンは対処を進めていたが、それ以外の調査研究は進まずデータボイド脆弱性は5年間放置されていたことになる。

その理由は根本的な対策が難しいためと、ヘイトや偽情報そのもののようにはっきりと目に見えるわかかりやすいものではないためだろう。研究や対策が進まない一方で悪用は進んでいた。

中国が多用するデータボイド脆弱性

実はデータボイド脆弱性には前述した以外にも深刻な問題がある。それは英語圏以外の対処が遅れていることだ。この問題は2つの側面があり、ひとつは単純に英語以外の言語で検索した結果の調整は英語ほど進んでいないこと、もうひとつはたとえ英語であっても英語圏以外の地名などの固有名詞の多くは英語で表現されることがないため、データボイド脆弱性が発生しやすいことだ。

中国はこのことを承知しており、デジタル影響工作に利用している。たとえばグーグルとBingのニュース検索およびYouTubeでの検索で中国の国営メディアが16%以上を占めていたという調査結果をブルッキングス研究が発表している。さらにXinjiang(新疆)で検索すると、ニュース検索では88%、YouTubeで検索すると98%の確率で中国の国営メディアが検索結果に表示された。ちなみに日本に関係する言葉では731部隊で検索すると、ニュース検索では100%、YouTube検索でも90%以上だった。

また、少数民族のインフルエンサー=フロンティア・インフルエンサーを利用して多数の動画をYouTubeにアップし、検索結果を侵食している。

狙われやすい日本

こういった事情から日本はデータボイド脆弱性を突いた攻撃の格好の標的になり得る。たたとえば、2021年11月1日から2022年2月28日の120日間、グーグルとBingのニュース検索すると、前述のデータ&ソサエティ研究所の論考などちゃんとしたページが上位に表示される。しかし、「データボイド脆弱性」で検索すると、私のnoteのページが上位に表示される。ちょっと言葉の組み合わせを変えるだけで簡単に上位に表示される。日本語では「データボイド」という言葉そのものにデータボイド脆弱性が発生している。

さらに日本の地名は世界の多くの国の人にとってなじみがなく検索されることも稀だろう。自然災害などが起きた時にデータボイド脆弱性が悪用される可能性は高い。こうしたことを考えると、非英語圏では特にデータボイド脆弱性に留意した誤・偽情報対策を考える必要がある。安易にSOTENを薦めることは危険だ。

ニューズウィーク日本版 高市vs中国
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月27号(1月20日発売)は「高市vs中国」特集。台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反落、次期FRB議長人事への思惑が

ビジネス

デジタルユーロ、小口決済インフラの基盤に=ECBチ

ワールド

米韓、初日の貿易協議は合意なし あすも継続=聯合ニ

ビジネス

米航空会社の税引き前利益、冬の嵐で3.8億ドル減少
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 6
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 7
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 8
    配達ライダーを飲み込んだ深さ20メートルの穴 日本…
  • 9
    致死率高い「ニパウイルス」、インドで2人感染...東…
  • 10
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story