ニュース速報
ワールド

アングル:イラン紛争で湾岸諸国の食料安全保障に打撃、輸入依存度は80%以上

2026年03月06日(金)15時13分

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにあるスーパーマーケット。3月3日撮影。REUTERS/Rula Rouhana

Sarah El Safty Maha El Dahan

[ドバ‌イ 5日 ロイター] - イランを巡る情勢悪化が、港湾物流の安定性を脅か‌している。ホルムズ海峡の海上交通は混乱しており、裕福な湾岸諸国は2008年の世界食料危機以来、最​大級の食料安全保障の試練に直面している。

その際に食料価格の高騰に直面した湾岸諸国は、多額の資金を海外の農業に投資し、輸入依存を前提とした政策へとかじを切った。それまでは⁠穀物の国内生産を増やす施策が実施されていたが、​コストが高い上に過酷な気候と水不足という壁に阻まれており、計画は縮小されることになった。たとえばサウジアラビアは08年に国内の小麦生産計画の縮小を始め、今ではほぼ完全に輸入に依存している。

湾岸地域では食料の輸入依存度が80―90%に達する。現在は世界的な物流が寸断され、多くの国で領空も閉鎖されているため、価格高騰や品不足は避けられない情勢だ。

英シンクタンク、チャタムハウスのアソシエートフェローであるニール・キリアム氏は、ペルシャ湾岸のアラブ諸国でつく⁠る湾岸協力会議(GCC)について「食料の70%以上がホルムズ海峡を経由して輸入されている。戦争が長引けば物資不足に直面することになる」と指摘した。

「GCC諸国は供給元の多様化を進め、混乱に耐えうる十分な備蓄を確保する措置を講じてきたが、それも数カ月しか持た⁠ない。このま​までは、価格の上昇や納期の長期化が市場を直撃し始めるだろう」

<物流のボトルネック、ホルムズ海峡>

アナリストらは、ホルムズ海峡が一時的にでも封鎖され、航路変更を余儀なくされれば、大きな負荷がかかると警告している。

ドバイのジュベル・アリ港をはじめクウェート、バーレーン、カタール、サウジアラビアの湾岸沿いにある主要港のほとんどは、入港する船舶の大半がホルムズ海峡を通過しなければならない場所にある。

今週、イランによる攻撃がこれら多くの生命線を直撃した。域内最大のコンテナ港であるジュベル・アリ港もその1つで、数時間にわたって操業停止に追い込まれた。

「最も深刻かつ即座に現れる影響は、約5000万人の生活を支えるジュベル・アリ港の⁠封鎖によるものだろう」。調査会社ケプラーの首席農業コモディティーアナリスト、イシャン・バヌ氏はこう述べた。

ホ‌ルファカン港、フジャイラ港など海峡封鎖のリスクが及ばない場所にあるアラブ首長国連邦(UAE)の港は、その処理能力に限りがあり、失われた機能を補う⁠のは困難だ。

バヌ⁠氏は「カタール、クウェート、バーレーン、イラクは事実上の内陸国となり、サウジアラビアを経由する陸路に頼らざるを得なくなる」と指摘。多額のコストを伴う「渋滞」が発生するとも話した。

<バナナや生鮮食品価格が異常な高騰>

今のところ物流の停滞は表面化していない。UAEは重要物資の戦略的備蓄が4―6カ月分あるとしており、専用ホットラインを通じて不当な値上げの通報を住民に呼びかけた。

あるスーパーマーケットの従業員は、棚には多くの商品が引き続き並んでいるものの、一部の商品は補充に時間がかかるようになってい‌ると語った。ドバイは今週、物資の流通を維持するため、トラックの通行規制を一時的に緩和した。

2月28日にイランが湾岸への報復攻撃を​開始すると、‌多くの人が買いだめに走り、一時的な供給の落ち⁠込みがさらにパニックをあおった。今後起こり得る事態の「予​行演習」になったとも言える。

「心理的リスクが重要だ。たとえ今は在庫が十分でも、住民がスーパーに殺到すれば、それ自体が不安を増幅させる」。チャタムハウスのキリアム氏はこう述べた。

すでに値上がりを感じている住民もいる。

3月3日、地元のフェイスブックグループにある買い物客がこう書き込んだ。「昨日から食料品が3倍の値段になった気がするのは私だけだろうか。バナナの値段まで狂っている」

バナナのように傷みやすい品物は、迂回によって輸送時間が延びると特に影響を受けやすい。輸送時間を短縮するため、空域が再開した際に空輸を利用すれば、‌価格はさらに跳ね上がる。

過去の危機と同様、政府による食料補助金を見込む専門家もいる。

<湾岸諸国の協力>主要な食料生産拠点へのアクセスを確保するための海外投資に加え、湾岸諸国はこの20年間、数十万トンの戦略的穀物を貯蔵できる近代的なサイロの建設も進め​てきた。小麦や米、食用油など、数カ月間の保存が可能な主食の緩衝材(バッフ⁠ァー)となる。

UAEは16年、ホルムズ海峡の外側に位置するインド洋沿岸のフジャイラ港に約30万トンの収容能力を持つ穀物貯蔵庫を開設した。この場所が選ばれたのは、欧米との緊張が高まるたびに海峡封鎖をちらつかせてきたイランを警戒し、戦略的にホルムズ海峡を迂回するためだった。

この構想は当初、緊急時の備蓄を湾岸地域全体で共​有することを想定していた。ただ国をまたぐ長距離移動や、道路・鉄道網の不備といった現実的な障害があり、結局は国内向けの施策にとどまった。他の湾岸諸国もその後、独自に貯蔵施設を建設している。

食料不足を回避するためにはGCC加盟国間の地域協力が不可欠となるが、6カ国からなるこの枠組みは、長年にわたり足並みを揃えるのに苦労してきた。

キリアム氏は「複雑な物流を管理し、イラクを含む7カ国すべてが食料を満たされるようにするには、GCC諸国間での密接な協力が必要になるだろう」と語った。

ロイター
Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アジア富裕層、ドバイから資産移転 中東紛争で安全神

ワールド

イスラエル軍、ベイルート郊外に激しい空爆 ヒズボラ

ワールド

米富豪事件でトランプ氏告発女性の聴取記録公開、性的

ビジネス

村田製作所、第三者が不正アクセス 一部データ取得
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 3
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影された、パイロットの「まさかの姿」にSNS爆笑
  • 4
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 5
    「ハリポタ俳優で終わりたくない」...ハリー・メリン…
  • 6
    対イラン攻撃に巻き込まれ、湾岸諸国が存立危機
  • 7
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 8
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 9
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「旅客数が多い空港」ランキン…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中