アングル:米圧力で燃料不足深刻化 キューバ、生活防衛は限界に
写真はハバナ市街。1月30日、ハバナで撮影。REUTERS/Norlys Perez
Dave Sherwood
[ハバナ 31日 ロイター] - カリブ海の社会主義国キューバはトランプ米大統領によって締め付けを強化され、あらゆる階層の市民が、生き残れるかどうかの瀬戸際に追い込まれている。停電時間は伸び、食料や燃料、交通の価格は急騰している。
ロイターは首都ハバナ周辺で露天商から民間部門労働者、タクシー運転手、公務員に至る30人余りを取材。燃料供給に依存する商品やサービスが不足し、価格も上昇する中で、人々が限界まで追い詰められている状況が浮かび上がってきた。
キューバの地方部の多くでは、こうした状況は決して目新しくない。老朽化し、脆弱な発電システムは何年も前から徐々に機能不全に陥っており、市民は電気やインターネット、水道用ポンプが何時間も使えない状態に慣れている。
一方、1950年代製の車が走り、老朽化しながらも色彩豊かなスペイン植民地時代の建物が並ぶハバナは、最近まで比較的恵まれていた。しかしながらキューバは今、ベネズエラに続きメキシコからの石油供給も止まって燃料不足が深刻化し、ハバナも危機に飲み込まれようとしている。
トランプ氏は、キューバに石油を供給する国からの輸入品に関税を課すと発言。今年1月初めにキューバの重要な同盟国であったベネズエラのマドゥロ大統領を拘束し、長年の宿敵であるキューバへの圧力を一段と強めている。
他の多くの国なら、こうした状況に陥れば抗議行動が起きたはずだ。しかし長年にわたり反体制的な動きが抑え込まれてきたキューバでは、これまでのところ大規模な反政府行動はほとんど見られない。ただし、市民がどこまで耐え続けられるのかは不透明だ。
キューバペソはこの3週間に対ドルで10%余り下落し、食料品の価格を押し上げている。ハバナ在住の主婦、ヤイテ・ベルデシアさんは「どうしようもない状況に追い込まれている。給料は全く足らない」と話す。
<日常生活は一段と逼迫>
マドゥロ氏拘束直後にキューバへの米軍介入の可能性について問われたトランプ氏は「キューバは崩壊寸前」のため、攻撃は必要ないと思うと話した。
キューバのロドリゲス外相は1月30日、米国の関税警告に対して「国際的な緊急事態」を宣言。米関税を「異常かつ特別な脅威」と表現した。だが、キューバ政府は人道危機の深刻化にどう対処するのかについてはほとんど言及していない。
ロイターが取材した多くのキューバ国民は、日常生活は以前から厳しかったものの、最近は食料、調理用燃料、水などの確保といった最低限のことまでひっ迫していると証言。ここ数日で明らかに状況が悪化したと訴えた。
市内で燃料が供給されている数少ないガソリンスタンドでは今週、給油待ちの列が大幅に長くなった。また、米国が昨年12月中旬にベネズエラからの石油供給を遮断して以降、ガソリンはほぼすべてドル建ての高値で販売されている。ドルを入手できる市民はごくわずかだ。
ハバナ在住のヘスス・ソサさんは住民が給油の順番を知るのに使っていたアプリを指して、「以前は申し込めば月に1回、(ペソで)給油できた。今は無理だ。ペソでの販売はなくなった」と語った。
<交通費を払うか、家にいるか>
燃料供給のひっ迫は公共と民間の両交通機関を直撃した。一部のバスや個人タクシーは営業を停止し、残る事業者も運賃の値上げを余儀なくされている。
ハバナで個人タクシーを手配しているダイラン・ペレスさん(22)によると、バスが減ったことで、人々は民間交通の値上げを受け入れる以外の選択肢がなくなったと話す。「値段を払うか、家にいるかだ」
燃料不足の都市で切り札と考えられていた電気自動車(EV)でさえ、8-12時間以上続く停電の影響を受けている。ハバナのタクシー運転手、アレクサンダー・レイエットさんは最近、電動の三輪タクシーに乗り換え、「これでうまくやれる」と思っていた。ところが、「今は停電のせいで、4-5時間しか充電できない」と打ち明ける。
故フィデル・カストロ元国家評議会議長による1959年のキューバ革命を起源とするキューバ政府は、時に苛烈な経済的苦難に直面しながらも、数十年にわたり存続してきた。差し迫った政権崩壊や反政府の蜂起を予測する声は、これまでに何度も覆されてきた。
キューバ政府は長年、反乱を扇動する米国主導の動きがあると主張してきたが、2019年から24年にかけて経済が12%縮小したにもかかわらず、直近で大規模な抗議行動が起きたのは新型コロナウイルス禍の最中の21年だった。
反体制的な動きに対する厳しい取り締まりと、パンデミック以降に100万―200万人が国外へ移住したことにより、国内の組織的な反政府勢力はほぼ消滅。ロイターが取材したキューバ市民の多くは抗議行動の可能性についての質問に答えるのを避けた。
<続く停電>
それでも、取材に応じた全員が「変化が必要だ」という点では意見が一致した。
「神様が、この苦境から抜け出す道を見つけてくれるよう祈るしかない」と語ったのは、ハバナ郊外グアナバコア地区の露天商、ミルタ・トルヒーヨさん(71)。食料が買えなくなったと話し、涙を流した。
以前は政府の配給に頼っていたが、観光収入や外貨収入が枯渇したため、配給はパンデミック後に段階的に廃止された。「自分の国に盾突いているわけじゃない。でも、飢え死にしたくない」という。
平日の夕方、ロイターの記者は停電で信号機が作動していないハバナの交差点で事故が起きるのを目撃した。ハバナ郊外マリアナオ地区の大通りを見下ろすアパートに住むライサ・レムさんによると、「停電になると、信号が動かなくて事故が起きることがある。以前は週に2、3回の停電だったが、今は毎日で、12時間続くこともある」という。
グアナバコア出身の家政婦、フリア・アニータ・コバスさん(69)は、毎朝午前4時に起きて、約10マイル(16キロ)を通勤する。公共交通機関の本数が減り、往復にかかる時間は4時間近くに伸びて費用もかさむ。「日の出前に家を出て、どうやって帰れるのか見当もつかない」と嘆いた。
カストロ革命直前に生まれたというコバスさんは、トランプ氏が状況を好転させてくれるとは全く期待していないと打ち明ける。その上で「私が生まれてからずっと、(米国は)私たちを脅し続けてきた。私たちは毎日苦難と向き合っているが、生き延びてきた」と振り返った。
ハバナ近郊レパルト・エレクトリコ地区に住むアイメー・ミラネスさん(32)は、キューバ政府にも米国政府にも希望を見いだせないでいる。「私たちは完全に追い詰められている。だが、打つ手はない。これはもう、生き残れるかどうかの問題だ。それ以外の話ではない」





