ニュース速報
ワールド

タイ・カンボジア紛争、戦火再燃に戸惑う国境地帯の住民 「2度も避難とは」

2025年12月11日(木)13時08分

Artorn Pookasook Chantha Lach

[サイトー村(タイ)/サムラオン(カンボジア) 10日 ロイター] - タイとカンボジアの国境地帯で再燃した両国軍の衝突により、国境の両側で何千もの住民が避難を余儀なくされている。だが中には、現地に残らざるを得なかった人たちもいる。

タイ側のブリーラム県では、村の村長で警備員でもあるワッティクライ・チムガームさんがタイヤを6層に積み重ねて作った間に合わせの防御壁の後ろに身を潜めていた。

「村長は私だ。私が残らなければ誰が残るというのか。誰が略奪者から村人の家や持ち物を守るのか。私がリーダーで、村の警備員全員が団結しなければならない」

戦闘は8日に再開。7月にトランプ米大統領の仲介で実現した停戦合意の維持が危ぶまれている。戦闘再開以来、何十万人もの人々が避難場所に移動した。

ワッティクライさんは、避難場所も標的にされるのではないかと心配している。

「心配しているのは自分だけじゃない。避難した村人たちも同じだ。ニュースによれば、彼ら(カンボジア)は最大130キロの射程距離を持つ重火器を保有している」と、ワッティクライさんは話した。

タイ側のタプラヤ地区では、市民が衝突再燃への怒りを口にした。村民のソピー・クンケムさん(65)が、カンボジアの軍事力を「吹き飛ばしてしまえ」と気勢を上げた。

「彼らは停戦すると言い、合意に署名したが、発砲を止めなかった」と、ソピーさんは話した。

両国とも、相手側が攻撃を再開したと主張し、相手側が民間人を標的にしたと非難している。

カンボジアの町サムラオンの北西約25キロに位置する係争中の村カウンクリエルでは、8日の戦闘再開直後から警戒心の強い住民が避難を始めた。少なくとも48人が死亡した7月の紛争の記憶がまだ新しかったからだ。

「避難は2回目。私が住んでいるところは国境にとても近く、前回も今回も攻撃を受けた」と話すのは、村を離れたカンボジア人のマルン・サルンさん(31)。妻と2人の子どもとともに村を後にした。

マルンさんと家族は、11世紀に建立されたタークロバイ寺院に近いカウンクリエル村から脱出した最後の一団となった。コメが入った袋とわずかな調理用品しか持ちだす時間がなく、今は避難場所近くの池で釣った魚で家族を養おうとしている。

マルンさんは、タイが再びカンボジアを攻撃するとは思ってもみなかったし、2度も村から避難することになるのは予想外だったと話す。

「緊張はあるかもしれないが、ここまでの事態にはならないだろうと思っていた。特にトランプ米大統領が停戦を仲介してくれた後は、もう2度と戦闘にはならないと思っていた」

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイとカンボジア、攻撃停止で合意とトランプ氏 12

ビジネス

FRB現行策で物価目標達成可能、労働市場が主要懸念

ワールド

トルコ大統領、プーチン氏に限定停戦案示唆 エネ施設

ワールド

EU、来年7月から少額小包に関税3ユーロ賦課 中国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中