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アングル:サウジ皇太子擁護のトランプ氏、米の伝統的な人権政策転換

2025年11月21日(金)12時40分

写真は、トランプ米大統領とサウジアラビアのムハンマド皇太子。11月19日、ワシントンで撮影。REUTERS/Evelyn Hockstein

Matt Spetalnick Patricia Zengerle Simon Lewis

[ワシントン 19日 ロイター] - トランプ米大統領は今週、2018年の記者殺害事件を巡り、サウジアラビアのムハンマド皇太子を擁護した。このことは、強権的な指導者と親しくするトランプ氏への批判を再燃させると同時に、世界的に人権を支持してきた米国の伝統的政策が大きく変化していることを浮き彫りにした。

7年ぶりに訪米したムハンマド皇太子は、米在住のサウジ人記者カショギ氏の殺害を承認したと米情報機関が結論付けた人物だ。

最近の米政権はほぼ全て、米国の国益を推進するため、人権面で芳しくない記録を持つ指導者とも協力してきた。

しかし、トランプ氏はその範囲を超え、サウジやハンガリー、中国、エルサルバドルなどの独裁的指導者を称賛しただけでなく、彼らをけん制するようなことにはほとんど関心を示さず、「ディール」重視のアプローチを取っている。

トランプ政権下で米国の人権政策がどれほど変化したかが明確になったのは、トランプ氏が18日、大統領執務室でムハンマド皇太子がカショギ氏殺害に何らかの役割を果たしたことを否定した瞬間だ。

オバマ政権の外交顧問で、現在はコンサルティング会社「グローバル・シチュエーション・ルーム」の代表を務めるブレット・ブルーエン氏は「トランプ氏は、米国と世界との関係を支える最も基本的な原則のいくつかを無視している」と問題視。「彼の言動は、強権的な指導者らに『好きなようにしてよい』という青信号を出している」と指摘する。

トランプ氏は、ムハンマド皇太子の世界的なイメージ回復を助けることに集中し、レッドカーペットでもてなし、世界最大の石油輸出国であるサウジとの経済・安全保障面での関係強化を強調した。皇太子は19日、数十億ドルの取引を宣伝する投資フォーラムを終えて帰路に着いた。かつて追放者扱いされていた指導者と、米国が通常のビジネス関係に戻ったことを示すものだ。

トランプ氏はトルコのエルドアン大統領やハンガリーのオルバン首相など、自身に友好的な他の指導者についても、人権問題を率先的に見逃している。

一方で、ブラジルや南アフリカなどの自らの政権と思想的に対立する政府に対しては、根拠の疑わしい人権侵害批判を展開。人権批判の対象を恣意的に選んでいるとの懸念を巻き起こしている。

<人権政策の再定義>

一部のアナリストや元米高官は、トランプ氏が現在、この姿勢を新たな次元に進めていると指摘する。

だが、トランプ氏の側近らは、諸外国の指導者らと築いた関係は有益以外の何ものでもなく、その外交手法こそが国益を高めていると主張している。

トランプ氏は、自身の熱心な支持層「MAGA」にアピールするよう人権政策を再定義している。その一環として、米国が伝統的に民主主義的価値観を推進する中心に据えてきた国務省の人権機構を全面的に見直した。

トランプ政権は、ジェンダーに基づく暴力やLGBTQの人々に対する迫害といった人権問題について限定的な関心しか示さないなど、人権政策をシフトさせている。この点について側近らは、他国への内政干渉からの脱却だとして正当化している。

トランプ政権は他方で、ルーマニア、ドイツ、フランスなどで右翼指導者が弾圧されたとして欧州の政治に公に介入した。

ブラジルについては、クーデター計画などの罪に問われたボルソナロ前大統領の起訴を巡り、左派のルラ政権に公に圧力をかけている。

ムハンマド皇太子訪米時のトランプ氏の態度は、人権政策の変化を最も明確に示したものかもしれない。トランプ氏は「彼と友人であることは名誉だ」と繰り返し訴え、人権問題についてさえ皇太子を称賛した。

<サウジによる歓待>

トランプ氏が5月にサウジを訪問した際、サウジは手の込んだもてなしで歓待した。人権問題を抱える他の指導者らも、この点に注目するかもしれない。

トランプ氏は、国内で強権を握る外国指導者への称賛を隠さない。エルドアン氏、オルバン氏の他にもロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席らとも、戦争や貿易問題を巡る緊張を超えて個人的な友情をうたってきた。

人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長、ジョン・シフトン氏は「米政府には、国内外を問わず人権問題に関してもはや何の信頼性もない」と話す。

ロイター
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