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焦点:トランプ氏の核実験再開指示、突然の発表に米政界混乱

2025年10月31日(金)11時17分

10月30日、もしも米戦略軍のリチャード・コレル副司令官が同日予定されていた司令官就任のための議会上院の委員会公聴会を無難に乗り切れると思っていたのならば、その希望は前夜に完全に打ち砕かれた。写真は30日、アジア歴訪から帰国したトランプ米大統領。メリーランド州アンドリュース基地で撮影(2025年 ロイター/Evelyn Hockstein)

Phil Stewart Idrees Ali David Brunnstrom Simon Lewis

[ワシントン 30日 ロイター] - もしも米戦略軍のリチャード・コレル副司令官が、30日に予定されていた司令官就任のための議会上院の委員会公聴会を無難に乗り切れると思っていたのならば、その希望は前夜に完全に打ち砕かれた。トランプ米大統領(共和党)がソーシャルメディアで突如、「米軍に対し核兵器の実験を開始するよう指示した」と明かして世界を驚かせたからだ。

コレル氏は30日午前に開かれた上院軍事委員会の公聴会で、トランプ氏の発言に困惑する議員らから繰り返し質問を受け、米政界内外の混乱ぶりが浮き彫りになった。

同委員会民主党トップのジャック・リード議員は、米国が爆発を伴う核実験を再開すれば情勢が不安定化し、世界的な核軍拡競争が起きるのではないかと質問。コレル氏は「もし私が戦略軍の司令官として承認されれば、実験に関する今後の議論において軍事的に助言するのが私の役割になる」と答えた。

コレル氏は終始、慎重に答弁した。アンガス・キング議員(無所属)から「トランプ氏の投稿は爆発を伴う核兵器の実験ではなく、ミサイルなどの運搬システムの試験を意味している可能性もあるのではないか」と尋ねられた際には、「大統領の意図については把握していない。そのような解釈もあり得ると思う」と回答した。

<米国の核実験モラトリアム>

米政府当局者は30日、トランプ氏が核兵器の運搬システムの試験を求めているのか、それとも33年間続いてきた、爆発を伴う核実験のモラトリアム(一時停止)を終わらせようとしているのかについて明確にしなかった。専門家は、もし核実験を再開すれば深刻な混乱を招いて敵対国の対抗的な行動を誘発するリスクがあり、冷戦時代の不安な記憶を呼び起こすものだと指摘している。

バンス副大統領は、実験は米国の核兵器が適切に管理されていることを確認する作業の一環だと説明した。

米国など核保有国は長年にわたり爆発を伴う核実験を停止しており、代わりにコンピューターによる高度なシミュレーションを用いて兵器の即応態勢を維持している。

NPO団体「憂慮する科学者同盟」のグローバル安全保障プログラムディレクター、タラ・ドロズデンコ氏は「米国が爆発を伴う核実験を再開する理由は全くない。むしろ米国内の全ての人々をより強い危険にさらすことになる」と危惧。「米国は核実験再開で失うものがあまりにも多く、得られるものはほとんどない」と述べた。

<ロシアと中国へのメッセージ>

アナリストの多くは、トランプ氏は交渉戦術と「強さ」を誇示しようとすることがしばしばあり、今回もロシアと中国に向けてメッセージを送る意図で発言した可能性が高いとみている。

今世紀に入って核爆発を伴う実験を行ったのは北朝鮮だけで、最後の実施は2017年。

ロシアは最近、新しい原子力兵器2つを試験したが、米政府はロシアが「低出力核実験」をしており、核計画の透明性に欠けていると非難している。ただし、ロシアは本格的な核爆発実験は実施していない。

ロシア大統領府報道官は30日、ロシアのプーチン大統領は、もしどこかの国が核兵器実験をすればロシアも実施すると警告していたと明らかにした。

中国は歴代の米政権による核兵器協議の呼びかけを繰り返し拒否している。現在は核兵器備蓄を大幅に増強する取り組みを進めているが、ロシアや米国との交渉にはほとんど関心を示していない。理由として現時点でロシアと米国の核戦力が中国よりもるかに大きいことを挙げている。

カーネギー国際平和基金の核政策プログラム共同ディレクター、ジェームズ・アクトン氏は「もし(トランプ氏発言の)狙いが中国を交渉のテーブルに着かせるべく圧力をかけることにあるのならば、うまくいく可能性は低いだろう」と述べた。

<敵対国を利する可能性>

核兵器脅威の削減に取り組む財団「プラウシェアズ」は、米国が核実験モラトリアムを破ることは米国の核競争相手国に核兵器実験の機会を与え、こうした国を利することになるだろうと問題視した。米国は過去に行われた全核爆発実験の大半を占め、1945年以来、計1030回の実験から得たデータを保持している。

プラウシェアズは声明で「核実験再開は、米国の敵対国が核の研究や兵器開発で追いつくことを可能にするという点で、彼らに利益をもたらすことになる」と指摘した。

匿名を条件に語ったエネルギー省の関係者によると、核実験は米西部ネバダ州の地下深くで実施される予定で、関連施設は36カ月以内に実験を実施できるよう整備されている。

コレル氏の指名公聴会でネバダ州選出のジャッキー・ローゼン議員(民主党)は、同州が1951年から92年まで米国の核爆発実験場となって被害を受けてきたとし、トランプ氏による実験再開を阻止する決意を表明。「はっきりさせておく。私は実験再開を絶対に許さない。私の任期中にはありえない」と訴えた。

ロイター
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