マクロスコープ:公明、連立解消も辞さず 首相指名・予算編成に影響も

10月8日、公明党が自民党との連立解消も辞さない構えだ。写真は公明党の斉藤鉄夫代表。都内で7月代表撮影(2025年 ロイター)
Tamiyuki Kihara
[東京 8日 ロイター] - 公明党が自民党との連立解消も辞さない構えだ。仮に袂を分かてば予算編成などへの影響は計り知れない。首相指名も見通せなくなるため、自民の高市早苗総裁が国民民主党や日本維新の会を巻き込んだ政界再編を急ぐ可能性も出てくる。
<「公明嫌い」麻生氏の影>
「党員、支持者が高市総裁に抱く懸念がある。議論したが結論には至らなかった」。公明の斉藤鉄夫代表は7日の高市氏との会談後、記者団にこう語った。公明関係者によると、両党は近く再び党首会談を開く方向だ。
この日、斉藤氏が高市氏に伝えた「懸念」は政治とカネの問題への対応、靖国神社参拝などの歴史認識、過度な外国人排斥の姿勢の3点だ。特に政治とカネについて、斉藤氏は企業団体献金の受け手を党本部や各都道府県本部などに限定する具体策の実行を求めた。
前出の関係者は「高市氏はかなり柔軟な姿勢のようだ」と語った。ただ、7日の自民党役員人事で副総裁に就いた麻生太郎氏は「公明嫌い」で知られる。高市氏の総裁就任に貢献し、新体制下で大きな影響力を誇示するとみられるだけに、同関係者は「麻生氏が連立解消を強く求めれば高市氏も逆らえないだろう」とみる。
実際、麻生氏は並行して国民民主幹部と接触を重ねており、新たな連立の枠組みを模索しているとの見方が大勢だ。自民内にも「この機に連立を解消し、国民民主や維新と組んで憲法改正を実現したい」(参院議員)との声が出始めている。
「単独与党」となれば自民は首相指名の獲得と政権安定を求め、国民民主や維新との連携・連立を急ぐことになりそうだ。ガソリン暫定税率の廃止や所得税非課税策の拡大に加え、副首都構想、社会保障改革などの政策や予算編成で更なる譲歩を迫られる可能性もある。
<専門家「野党から首相、あり得る」>
仮に自公が連立を解消した場合、永田町の権力構造が大きく変わることになる。
まず国土交通相や各副大臣、政務官など閣内から公明が抜けることになり、今月中旬にも実施される首相指名選挙でも高市氏に投票しない公算となる。
立憲民主党の安住淳幹事長は8日、国民民主の榛葉賀津也幹事長と国会内で会談し、同党の玉木雄一郎代表を首相指名する可能性も排除しない考えを伝えた。榛葉氏は立民との共闘に否定的だが、仮に野党が「高市氏以外」でまとまれば議席数の上では高市氏の首相選出が確実とは言えなくなる。
政治評論家(自民元幹部職員)の田村重信氏は「首相指名で野党の首相が選出される可能性はあり得る」とみる。高市氏が党役員人事で麻生氏を重用し、麻生派の鈴木俊一氏を幹事長とした点に触れ、「全面的に麻生氏に依存したあり得ない人事だ。これに公明党が反発した」と話す。
加えて、自民内の動きにも注目する。田村氏は「一部の自民議員は公明の応援がなければ次の選挙で落選してしまう」とした上で、「もし高市氏が公明との連立を維持できなければ、そうした議員らが反発して首相指名で高市氏の名前を書かない可能性すらある」と指摘。「高市氏が首相に就任するためには、公明との関係修復、連立維持は必須条件だ」と話した。
<公明、予算案賛否には含み>
ただ、公明がどこまで自民と距離を取るかは不透明な部分も残る。
補正予算や来年度予算については、予算編成の前提となる「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」策定には公明も閣内で関わった。前出の関係者は「来年度予算までは公明にも責任がある」と述べており、予算案への賛否には含みをもたせる。
選挙戦略についても、公明が自民との選挙区調整によって議席を獲得してきた面は否定できない。同関係者は「関係が深い自民議員には推薦を出し続けることもあり得る」と説明。選挙協力の解消には慎重な姿勢を見せた。
<26年の歴史と組織力の弱体化>
自公連立が始まったのは1999年だ。現在、公明は全国に1800人以上の自治体議員を擁し、首長選や市町村議会議員選でも自民候補に推薦を出すなど協力が広がっている。2009年に民主党政権が誕生して下野した際も、全国に根付いた自民との関係を重視して自公の枠組みを崩さなかった。
公明は自民の「ブレーキ役」を自負し、特に憲法改正論議や安全保障関連政策で存在感を示してきた。一方、支持母体の創価学会の池田大作名誉会長が23年に死去。学会員も減少傾向にあるとされ、昨年の衆院選では当時代表だった石井啓一氏が落選するなど「組織力」の弱体化が指摘されている。
(鬼原民幸 編集:橋本浩)