ニュース速報
ワールド

焦点:貿易巡る米インド対立、広範な協力関係に影響も 

2025年08月07日(木)18時01分

 8月6日、貿易とロシア産原油の購入を巡って、トランプ米大統領がインドを激しく非難し続けている。インド・ディーンダヤル港で4月撮影(2025年 ロイター/Amit Dave)

Krishna N. Das David Brunnstrom Shivam Patel

[ニューデリー/ワシントン 6日 ロイター] - 貿易とロシア産原油の購入を巡って、トランプ米大統領がインドを激しく非難し続けている。これにより両国がこの20年で築いてきた外交関係が逆戻りしかねず、国内の政治的な圧力を受けて両国がそれぞれが強硬姿勢を強めれば、他の分野の協力関係も崩れる恐れがあると、外交問題のアナリストや政府関係者は指摘している。

トランプ氏は6日、インドがロシア産原油を大量に購入していることを理由に、既存の25%の関税に加えて25%の追加関税を課す大統領令に署名した。インドの野党や一般市民は、トランプ氏の行動は「いじめ」だとして毅然と立ち向かうようモディ首相に求めている。

インドはこの数年で、米政府にとって中国に対する戦略的競争上の重要なパートナーとなったが、一方で対米貿易で大きな黒字を抱え、ロシアと緊密な関係を築いていることから、トランプ氏の関税攻勢の主要な標的となった。トランプ氏はロシアに対してウクライナと和平交渉に合意するように圧力をかけ続けている。

インドが敵対的な関係にあるパキスタンから原油を買えるだろうとトランプ氏が述べたこともまた、インド政府内部で不評だと政府関係者2人は明かす。また、トランプ氏が最近起きたインドとパキスタンの間の軍事衝突を終わらせる手段として貿易を利用したと主張していることも、インドは繰り返し否定してきた。

インドは今週発表した異例の厳しい声明で、米国がロシア産のウラン、パラジウム、肥料を購入し続けている一方で、インドによるロシア産原油の輸入を標的にしていることを「二重基準」だと非難。6日に関税措置が発表されると、「不公平で、正当性がなく、理不尽だ」と非難し、「国益を守るために必要なあらゆる措置を講じる」と強調した。

ただ、米国との対立がこれ以上激しくなれば貿易以外の分野で問題が生じることをインド政府は理解していると、関係者は述べた。中国と異なり、インドはトランプ氏に貿易交渉の内容を改めさせるレアアースのような交渉材料がないという。

トランプ氏の1期目を含めた近年の米政権は、中国の台頭に対抗する長期的な取り組みとして、インドを極めて重要なパートナーとして関係を慎重に築いてきた。

だがトランプ氏の最近の行動により、両国関係は米国が1998年にインドの核実験に対して制裁を発動して以来最悪の局面に後戻りしている可能性があると、専門家はみている。

カーネギー国際平和基金のアシュリー・テリス氏は「インドは今、身動きが取れない状況に陥っている。モディ氏はトランプ氏の圧力のためにロシア産原油の購入を減らすだろうが、脅しに屈したとみられることを恐れて購入を減らしたとは公に認められない」と指摘。「(米国は)無用な危機に突き進み、25年間努力して得た対インド関係の成果をだめにしてしまうかもしれない」と懸念する。

専門家によれば、インドにとってより差し迫った課題は、技術者向けの就労ビザやサービス業の海外委託のような重要な問題を巡って、自国の優先事項とトランプ氏の支持基盤の間で受け止め方が完全に食い違っていることだ。インドは長年、米国の就労ビザ制度やソフトウエアや企業向けサービスでアウトソーシングの恩恵を大きく受けてきた。人件費が安いインドの労働者のために雇用を失った米国人にとっては問題の核心部分だ。

ブッシュ(子)政権の元米国務省高官であるエヴァン・ファイゲンバウム氏は「移民と強制送還、技術者向けビザ、米企業の海外製造、外国人との技術共有・共同開発など、インドと直接関連する問題は米政界で最も党派的で議論を呼ぶテーマだ」と説明した。

インド政府関係者の一人は、インドがトランプ氏の関税や援助削減の影響を受けた他国、とりわけアフリカ連合やブラジル、ロシア、中国、南アフリカのBRICS各国との関係を強化しながら米国と徐々に関係修復をする必要があるとの考えを示した。

インドは既にロシアや中国と関係強化を進めている。

ロシアのプーチン大統領は今年中にニューデリーを訪問する予定だ。ロシアは5日、両国が「非常に特別な戦略的パートナーシップの形成を通じた」防衛協力関係の一段の強化について協議したと発表した。

また、2020年の国境衝突の以後冷え込んでいた中国との関係も改善されつつある。モディ氏はまもなく18年以降初めて中国を訪問する。

ニューデリーに拠点を置くオブザーバー研究財団のアナリスト、アレクセイ・ザハロフ氏は「インドは対ロシア制裁のような構造的な要因を考慮しつつ、トランプ政権と妥協点を探るはずだ」と述べた。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀、予想どおり0.25%利下げ 5対4の僅差で

ビジネス

S&P、中国の格付けを「A+」に据え置き 見通し「

ワールド

相互関税、「15%」の認識に齟齬ないと米側と確認し

ビジネス

ドイツ自動車工業会、EU・米貿易協定の即時履行を要
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 2
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの母子に遭遇したハイカーが見せた「完璧な対応」映像にネット騒然
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 5
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 6
    バーボンの本場にウイスキー不況、トランプ関税がと…
  • 7
    【徹底解説】エプスタイン事件とは何なのか?...トラ…
  • 8
    大学院博士課程を「フリーター生産工場」にしていい…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    【クイズ】1位は中国で圧倒的...世界で2番目に「超高…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 9
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 10
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中