焦点:EUの対米関税合意は苦渋の決断、交渉カードなく不利な条件甘受

7月27日、欧州連合(EU)は対米関税交渉において最終的にトランプ米大統領から有利な条件を引き出すための手段がないことが分かり、明らかに米国に都合の良い取り決めでも合意せざるを得なくなった。写真は握手するトランプ氏とフォンデアライエン欧州委員長の手。英スコットランド・ターンベリーで27日撮影(2025年 ロイター/Evelyn Hockstein)
Mark John
[ロンドン 27日 ロイター] - 欧州連合(EU)は対米関税交渉において最終的にトランプ米大統領から有利な条件を引き出すための手段がないことが分かり、明らかに米国に都合の良い取り決めでも合意せざるを得なくなった。
数カ月にわたる協議の末に15%の関税率で妥協を強いられた結果、米国や中国と互角に渡り合える経済力を持つ存在になるというEUが抱く野望には、厳しい現実が突き付けられた形だ。
合意した関税率は、トランプ氏が8月1日から発動すると示唆していた30%の「相互関税」に比べれば、はるかに受け入れやすいのは間違いない。欧州は低調な経済成長が続くだろうが、何とか景気後退を免れるはずだ。
だがそれは、米国の輸入関税率が平均1.5%程度だった第2次トランプ政権誕生前の世界からは程遠い。
5月に英国が米国との交渉で10%の基本関税に同意した後でも、EU側はもっと好条件で話をまとめられるとの認識を堅持し、トランプ氏の提案に対抗して「ゼロ・ゼロ関税」協定を実現する経済力が欧州にはあるのだと自信を持っていた。
それから数週間、EUは最悪でも10%なら容認できるという線で米国と協議したが不調に終わり、さらに数週間を経て日米の合意と同じ15%という関税率にようやくたどり着いた。
あるEU加盟国の高官は「EUは米国に比べて交渉の武器が乏しく、トランプ政権に合意を急ぐ姿勢もなかった」と指摘した。
一方この高官や他の関係者の話では、EU域内の輸出関連業界は合意を急がし、自分たちに影響を及ぼし始めている不確実性を緩和してほしいと要望していたという。
EU外交官の1人は「われわれは厳しい状況に置かれた。今回の取引は、そうした環境下では最善の行動だ。ここ数カ月で欧州企業に世界貿易面の不確実性がいかに大きな打撃を与えているかが鮮明になった」と強調した。
<弱い立場>
この米国に比べて弱かった欧州の立場、つまり交渉担当者の言葉で言うと双方の「非対称性」が、協議の最終盤であらわになった。
結果としてEUは対米報復措置を中止し、現在の条件で米国製品に市場を開放し続けるばかりか、6000億ドルの対米投資まで約束させられた。
それでも話し合いを続けるうちに、EU側は米国との全面対決の方が失うものが大きいとの結論に至らざるを得ないことが明確になった。
EUは米国とのモノの貿易で2000億ユーロ近くの黒字を計上しているが、報復措置を発動しても影響を与えられるのはその半分弱の930億ユーロにとどまる。
米国が対EUで昨年750億ドル前後の黒字だったサービス貿易にも報復措置を拡大することを視野に入れ始めたEU加盟国が増えていたのも確かだ。
しかし米国のデジタルサービスを標的する意見は、決して多数派にはならなかった。マイクロソフトのクラウド事業やネットフリックスの動画配信などのサービスは欧州市民も享受している上に、域内に代わり得る企業はほとんど存在しない。
欧州の指導者は長年、経済改革と貿易関係の多様化を口先では唱えながら、実際には各国の思惑の違いによって実現が阻まれてきた。そして今回の米国との合意を受け、指導者たちが改革加速の意欲を高めるかどうかは分からない。
ドイツ卸売・貿易業連合会(BGA)のディルク・ヤンドゥラ会長は「過去数カ月(の出来事)は警鐘と考えよう。欧州は今、将来に向けて戦略的な備えを固めなければならず、われわれは幾つかの世界最有力の産業大国と新たな貿易協定を結ぶ必要がある」と訴えた。