焦点:「減税より賃上げ」巡り曲折、好経済へ効果未知数 骨太方針を決定

6月13日、政府は石破茂政権として初となる経済財政運営の指針(骨太方針)を閣議決定した。写真は石破首相。2024年12月、都内で代表撮影(2025年 ロイター)
Takaya Yamaguchi
[東京 13日 ロイター] - 政府は13日、石破茂政権として初となる経済財政運営の指針(骨太方針)を閣議決定した。賃上げを起点に名目1000兆円経済を目指す新方針を掲げたが、「減税政策よりも賃上げ政策」とうたう修文では紆余(うよ)曲折もあった。少数与党下で思惑通り政策を進められるかも見通せず、効果は未知数と言えそうだ。
<金看板に賃上げ政策掲げ>
骨太決定に先立つ調整過程では、手取りを増やす政策にかかる表現ぶりが宙に浮いた。「入っては消えての繰り返し」(政府関係者)を続けたのが、「減税より賃上げ」との文案だった。
6日の原案提示の寸前まで「財源の裏付けがない減税政策によって手取りを増やすのではなく、経済全体のパイを拡大する中で、物価上昇を上回る賃上げを普及・定着させる」としていたが、土壇場で「財源の裏付けがない減税政策」という文案を削除。代わりに復活させたのが先の表現ぶりだった。
事情に詳しい関係者の1人は「担当閣僚による文案だったが途中で消え、(自民)党幹部が再度追記した」と内幕を明かす。消費減税を求める与野党からの声をけん制する一方、賃上げを起点とする成長実現への決意をにじませる狙いがあったという。
政府原案の提示から自民、公明両党による与党プロセスを経て「減税政策よりも賃上げ政策」と微修正されたスローガンは、石破政権の新たな金看板となる。
<減税争点化避ける狙いも>
紆余曲折を経ても、減税政策から距離を置きつつ、成長実現を前面に打ち出した背景には、7月の参院選があるとみられる。
野党の多くは消費税減税や軽減税率の拡充を選挙公約に掲げる構え。一方、政権内では「安易な減税に傾けば、国際社会から厳しい目線が向けられる」(中堅幹部)と警戒する声が強い。大規模な減税策を打ち出し、市場の混乱を招いた2022年の英トラス・ショックが念頭にある。
石破首相(自民党総裁)は9日、2040年の名目国内総生産(GDP)1000兆円、平均所得5割上昇という目標を参院選の最重点公約に掲げるよう、党幹部に指示した。
「夢のある目標を掲げることで、減税が最大の争点となるのをかわす」(別の幹部)という狙いも透ける選挙公約で、「責任政党としてあるべき姿を示す」と前出の党幹部は語る。
<終盤にかけ「複雑骨折」>
とはいえ、当初は明文化されていた「財源なき減税」との文言が削除され、減税と一定の距離を保ちつつも、表現を後退させたのは確かだ。
「減税より賃上げ」とした修文について、政府・与党の間では「減税を否定するものではなく、優先の度合いを示したもの」(関係者)との声がある。「(参院選での)争点化を避けたいだけなら、そもそも書く必要もなかったのでは」(別の関係者)との声も浮かぶ。
企図する税目が消費税であることは明らかだが、税目を決め打ちしなかったことが、かえって付け入る隙を与える懸念もあった。
2013年に当時の安倍晋三政権が導入した賃上げ促進税制は、今なお続くが、23年度単年度では7000億円超の減収を通じて事実上、公費を投じる形となった。次年度も賃上げ促進税制を続けられるかは矛盾をはらむ。
最終的には「既に講じた減税政策に加えて、これから実現する賃上げによって、さらに手取りが増えるようにする」と追記して整合性を担保。減税をけん制することに固執するあまり「複雑骨折化した内容となった」と、経済官庁幹部の1人は語る。
<看板倒れ、懸念は拭えず>
新たな骨太方針では「賃上げこそが成長戦略の要」とする新たな理念も掲げ、成長型経済への移行に打って出る姿を鮮明にした。
岸田文雄前政権以降、不文律として共有されてきた実質賃金1%上昇という政府目標を明文化することで、所得向上へ不退転の覚悟を示したものだ。賃上げ原資となる価格転嫁や生産性向上に向けた取り組みを柱に、「賃上げ支援の施策を総動員する」との考えも盛った。
ただ、新味に欠く取り組みが多く、抜本的な底上げを図れるかは見通せない。
「対策を打とうにも野党からの突き上げを受けて、すんなり事を運べない(少数与党という)状況に変わりない」(別の経済官庁幹部)との声も残る中、看板倒れとなる懸念は拭えない。