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アングル:ウクライナのドローン奇襲、衛星画像が示すロ軍爆撃機の甚大被害

2025年06月04日(水)15時27分

ウクライナが6月1日、ロシアで実施した無人機による攻撃の直後に撮影されたロシア空軍基地の衛星画像から、複数の戦略爆撃機が破壊され、深刻な損傷を受けたことが分かった。写真は攻撃を受けたイルクーツク州ベラヤ基地の衛星写真。2日撮影。提供写真(2025年 ロイター/Capella Space)

Tom Balmforth Milan Pavicic

[3日 ロイター] - ウクライナが1日、ロシアで実施した無人機による攻撃の直後に撮影されたロシア空軍基地の衛星画像から、複数の戦略爆撃機が破壊され、深刻な損傷を受けたことが分かった。3人のオープンソース・アナリストが分析した。

ウクライナは、標的付近のコンテナから発射した117機の無人機により、ロシア国内の少なくとも4つの空軍基地を攻撃した。ロイターが検証したドローン映像は、少なくとも2つの場所で複数の航空機が攻撃を受けたことを示している。

衛星企業のカペラ・スペースはロイターに対し、このうち1つの空軍基地が攻撃翌日の2日に撮影された画像を提供した。シベリアのイルクーツク州にある基地だ。今回の攻撃は、3年以上に及ぶ戦争でウクライナが実施した最も複雑かつ効果的な作戦となった。

従来の衛星写真では地上の様子が雲で覆い隠される場合があるが、このデータは合成開口レーダー(SAR)衛星から取得したもので、詳細な地形も識別できる。

画像は通常の高解像度写真よりも粗く、白黒ではあるが、ベラヤ軍事基地の滑走路沿いや、近くの防護堤に駐機していた複数の航空機の残骸らしきものが写っている。

米ジェームズ・マーティン不拡散研究センターの研究員、ジョン・フォード氏は「視認可能な残骸や最近の衛星画像との比較、そしてXに投稿されたドローン映像を比較すると、複数の航空機が破壊されていることが分かる」と述べた。

フォード氏は、ロイターが提供したSAR画像には、ウクライナへのミサイル攻撃に使用された長距離超音速戦略爆撃機 「ツポレフ22バックファイア」2機の残骸と見られる物体が写っている、と述べた。

同氏によると、SAR画像とソーシャルメディアに投稿されたドローン映像からは、戦略爆撃機「ツポレフ95」4機が破壊された、もしくは深刻な損傷を受けたことも分かる。

オープンソース情報アナリストのブレイディ・アフリック氏も、イルクーツク空軍基地のSAR画像から複数のツポレフ95およびツポレフ22の破壊や損傷が確認できると述べた。

影響を適切に評価するにはさらに多くの画像が必要だが、「この空軍基地に対する攻撃が大きな成功を収めたことは明らかだ」と同氏は指摘。標的となったツポレフ95およびツポレフ22は、ロシアがウクライナへの攻撃に用いた爆撃機だと説明した。

アフリック氏はさらに、ベラヤ空軍基地には複数のデコイ(おとり)航空機が配備されているが、今回はウクライナの無人機を欺くのに失敗したようだと述べた。

<大爆発>

ロイターは、ロシアの極北西部ムルマンスク州のオレニャ空軍基地のSAR画像は入手できていない。この基地も攻撃を受けた。

しかしウクライナ当局が提供し、ロイターが確認したオレニャ基地のドローン映像には、ツポレフ95とみられる爆撃機2機が燃える様子と、3機目のツポレフ95が大規模な爆発に見舞われている様子が写っていた。

ロシア国防省は、ウクライナがムルマンスク、イルクーツク、イワノボ、リャザン、アムール各州の軍事空港を標的とした無人機攻撃を実施したと説明。防空システムによって3地域への攻撃は撃退したが、ムルマンスクとイルクーツクでは撃退できず、これらの地域で複数の航空機が炎上したとしている。

ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)は「報復は不可避だ」と述べた。

ウクライナ情報機関の保安局(SBU)は、「クモの巣」と名付けた今回の作戦で、計41機のロシア軍機に損傷を与えたと主張した。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、戦線から4300キロ離れた目標を狙った今回の攻撃は「まったく見事だった」と称賛した。

SBUは、作戦による損害が70億ドルに上り、ロシアの主要空港にある戦略巡航ミサイル搭載機の34%が破壊されたと説明した。

ロイターはこの主張を独自に確認できなかった。

一部の専門家は、今回の作戦はロシアに戦略爆撃機によるウクライナへのミサイル攻撃を停止させるには不十分だが、損傷を受けた航空機の代替は困難、あるいは不可能だと指摘した。一部の機体は既に生産を終了しているためだ。

戦争研究所(ISW)の研究グループによると、この攻撃によってロシアは防空システムの再構築を余儀なくされる可能性が高い。

ISWは「ロシア当局は、より広い地域をカバーできるような防空システムの再配置に加え、場合によっては将来ウクライナによる同様の無人機攻撃に迅速に対応できる移動式防空部隊の展開を検討せざるを得なくなるだろう」と予想した。

ロイター
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