ニュース速報
ワールド

アングル:中国にのしかかる「肥満問題」、経済低迷で食生活悪化 財政負担増も

2024年09月08日(日)08時02分

 9月2日、経済が低迷する中国では、今後国民の間に肥満が急増して医療費が膨らむ可能性があり、新たな財政的課題として浮上している。深センの飲食店街で2022年5月撮影(2024年 ロイター/David Kirton)

Farah Master Andrew Silver

[香港/上海 2日 ロイター] - 経済が低迷する中国では、今後国民の間に肥満が急増して医療費が膨らむ可能性があり、新たな財政的課題として浮上している。背景にあるのは経済問題や都市化、雇用構造の変化だ。

中国の肥満問題には、双子の課題がある。まず、長引く低成長で消費者はより安価だが不健康な食べ物に依存せざるを得なくなってきている。そして、技術革新を通じた近代化・自動化の取り組みに伴い、運動量が乏しいデスクワークなどの仕事に従事する人が増えている。

例えば住宅やインフラ施設が十分に整備された結果、建設や工業に従事していた何百万人もの労働者は近年、ライドシェアや料理宅配サービスの運転手などに仕事を切り替えつつある。

一方、デフレ的な環境にあって、消費者は食事でも価格を重視。中国のファストフード市場は来年に1兆8000億元(37兆円)と、2017年の8920億元から大幅に拡大するとの試算も出ている。親が子どものスイミングスクール費用等を減らす例も出ている。

地域別に見ると、都市部は仕事のストレスや長時間勤務、ひどい食生活がリスク要因で、農村部は不十分な医療体制のために肥満への対応が整わない場合が多い、と医師や研究者らは話す。

米シンクタンク、外交問題評議会のグローバルヘルス上席研究員を務めるヤンチョン・フアン氏は「経済の下振れはしばしば、人々の生活スタイルに変化をもたらす。食事習慣は不規則化し、社会活動が減るかもしれない。日々の習慣が変われば肥満と、その結果として糖尿病が増えかねない」と語り、肥満率が飛躍的に上昇を続けて医療体制に負荷がかかると予想している。

7月には中国国家衛生健康委員会(NHC)幹部が、肥満と太り過ぎが「重大な公衆衛生上の問題」を引き起こすと警告。国営通信新華社は同月、国内成人の半数以上が肥満か太り過ぎだと伝えた。この比率は、世界保健機関(WHO)による37%との見積もりよりも高い。

BMCパブリック・ヘルスの調査では、体重問題に絡む治療にかかる費用は30年までに4180億元と、医療関連予算全体の22%を占める見通しだ。22年は8%だった。

これは既に多額の債務を抱えている地方政府にさらなる負担を強いることになり、中国が成長加速に向けてより生産的な分野に資源を投入できる余地が小さくなる。

<肥満防止運動>

中国のNHCや他の政府機関は7月、国民に肥満防止の取り組みを啓発する運動を開始。「生涯やり続ける」「積極的に監視する」「バランスの取れた食事」「快眠」「運動」「達成できそうな目標設定」「家族での行動」といったスローガンを掲げた。

小中学校には健康維持のガイドラインが配布され、定期的な検診や毎日の運動、栄養士の採用、減塩や油・砂糖を控えるなどの健康的な食習慣導入を促している。

世界保健機関(WHO)の定義では、体格指数(BMI)25以上が太り過ぎ、30を超えると肥満とされる。中国で肥満に分類される人の比率は8%で、周辺の日本や韓国を上回るが、米国の42%に比べるとずっと低い。

これは1960年代までむしろ幅広い地域で飢饉を経験していた中国では、肥満が比較的新しい問題であることにも起因する。

RTIインターナショナルの医療政策アナリスト、クリスティナ・マイヤー氏は「中国は疫学的な移行期にあり、栄養不良に付随する病気に代わって、不健康な食事やほとんど動かない生活スタイルによる病気が増えてきている」と分析した。

<子どもの肥満対策>

複数の医師は、急速な都市化に消費者や労働者が適応していく中で、多くの太り過ぎの人々が肥満の域に踏み込む恐れがあるとみている。

韓国・成均館大学の経済学者ジュン・スンキム氏は「経済悪化で所得が目減りすれば、ファストフードなど質の低い食品の消費拡大につながりかねない。それが今度は肥満の原因になるのではないか」と話す。

都市化とともに広がっている長時間勤務も懸念されている。朝9時から夜9時まで、週6日働くことを意味する「996」の文化を背景に、肥満患者の一部が食べることで仕事のストレスを解消していると報告する医師もいる。

中国の男子児童の肥満率は、1990年には1.3%だったが、22年には15.2%に跳ね上がった。それでも米国の22%を下回っているが、日本の6%、英国とカナダの12%、インドの4%を上回った。女子児童の肥満率も90年の0.6%から7.7%に跳ね上がっている。

青島大学のリー・デュオ統括教授は、多くの児童が校門付近や下校途中で大量の塩分や油、砂糖が入ったスナックを買っていると指摘し、政府は食品企業や学校、地域社会、小売店と連携してジャンクフードないし甘く味付けした飲料を原因とする肥満のリスクをもっと伝えるべきだと訴えた。

さらに「学校でジャンクフードと砂糖入り飲料の販売を禁止し、学校周辺の特定範囲でジャンクフード販売店をゼロにしなければならない」と提言している。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリアへの管理措置を停止 対中

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

中国、日本産水産物を事実上輸入停止か 高市首相発言
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中