ニュース速報
ワールド

アングル:韓国・延坪島の外国人カニ漁労働者、北朝鮮の砲撃に恐怖

2024年01月10日(水)18時00分

 1月9日、 スリランカ人のシヤム・モハメドさんとMJニムシャン・ダナンジャヤさんは昨年11月、カニ漁の出稼ぎで韓国の延坪島に来るまで、そこが北朝鮮から目と鼻の先であることに気付いていなかった。写真は同日、延坪島を移動する軍用車両(2024年 ロイター/Kim Hong-Ji) 

Ju-min Park Minwoo Park

[延坪島(韓国) 9日 ロイター] - スリランカ人のシヤム・モハメドさん(25)とMJニムシャン・ダナンジャヤさん(23)は昨年11月、カニ漁の出稼ぎで韓国の延坪島(ヨンピョンド)に来るまで、そこが北朝鮮から目と鼻の先であることに気付いていなかった。

2人は今月5日、突然、現実を思い知らされた。携帯電話のアラームが鳴り、読めないハングルで警告が表示され、続いて砲撃音が鳴り響いたからだ。

数キロ先の北朝鮮が、軍事演習と称して200発を超える砲撃を行ったのだ。砲撃は週末も続いた。韓国は5日、対抗措置として海上への砲撃訓練を実施した。

延坪島では2010年、北朝鮮の爆撃によって兵士2人と民間人2人が亡くなり、韓国の反撃で北朝鮮側にも犠牲者が出た。今回の緊張の高まりは、島民に当時の記憶を呼び起こした。

しかし、モハメドさんとダナンジャヤさんは、そんな歴史を知らない。

モハメドさんは9日、ロイターに「あの音でパニックになった」と語った。「戦争が始まるのか。家族、親、親戚を養うためにここに来たのに、おびえる羽目になった。家族も僕のことを心配しているのではないかと気がかりだ」と述べた。

元サッカー選手のモハメドさんは、カニ漁で稼いで家を買おうと、スポーツの道を離れた。月給は200万ウォン(1500ドル)で、スナック菓子を買うための小遣い以外、大半を家に仕送りしているという。

カニ漁シーズンが始まる3月までは、冷凍ガニの入った箱を配送用に運ぶ仕事をしている。昼食は、企業の食堂で魚とジャガイモの入ったコメ料理を食べる。

ダナンジャヤさんは、モハメドさんのほか、スリランカとベトナムからの出稼ぎ労働者4人と寮をシェアしている。昨年11月、韓国に来る直前に結婚。やはりカニ漁の収入でスリランカに家を建てるのが望みだ。

ダナンジャヤさんも、軍事衝突によって自分たちの「韓国ドリーム」が消えるのではないかと心配している。

出稼ぎ労働者は延坪島の住民の約10%を占め、カニ漁産業の重要な労働力になっていると雇用主のキム・ジョンヒー氏は言う。

「彼らがいなければ何もできない」とキムさん。「島の韓国住民は高齢で、船に乗っている者は皆無に近い。外国人がいなければ漁業は続けられない。彼らにここを気に入ってもらい、定着してもらいたいが、現在の(地政学的)状況は全くの逆風だ」と嘆く。

島生まれ、島育ちのキムさんは、緊張がいずれ収まると期待している。だが、島を初めて訪れた出稼ぎ労働者らが紛争を恐れるのは無理もないと言う。

モハメドさんは「上司と彼の奥さんは僕たちにとても良くしてくれるし、韓国の人々は感じがいい。延坪島は木がたくさん生えて美しい。韓国と北朝鮮の状況を除けば、完璧なんだが」と語った。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

航空業界ネットゼロに黄信号、SAF供給不足 目標未

ビジネス

金利上昇続くより、日本の成長や債務残高GDP比率低

ワールド

米、中国軍のレーダー照射を批判 「日本への関与揺る

ビジネス

午前の日経平均は反落、FOMC警戒で朝高後に軟化
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中