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アングル:ドイツ極右政党、反移民・反グリーンで勢力伸ばす

2023年06月10日(土)07時49分

6月7日、ドイツで反移民を訴える極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が世論調査で支持を伸ばし、主要政党が警戒を高めている。写真は2022年10月、ベルリンで抗議活動を行うAfD支持者(2023年 ロイター/Christian Mang)

Sarah Marsh

[ベルリン 7日 ロイター] - ドイツで反移民を訴える極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が世論調査で支持を伸ばし、主要政党が警戒を高めている。移民の阻止を訴え、環境保護(グリーン)政策にはコストがかかると批判することで、ドイツ東部3州の選挙で勝利を収める勢いだ。

全国世論調査では、AfDの支持率は17-19%と過去最高に近い数字で、調査によってはショルツ首相の社会民主党と2位を争う位置にある。10.3%の得票を確保した2021年の選挙の時点では第5位だった。

AfDがこれほどの支持率を記録したのは、欧州移民危機発生後の2018年以来となる。今回、ナショナリズムと反移民を掲げるAfDとしては、ショルツ首相率いる3党連立政権の内輪揉めにも乗じた格好だ。

極右政党は欧州各国で勢力を広げつつある。フランスでは選挙での対立候補として以前より強力になり、イタリアとスウェーデンでは連立与党として政権に加わっている。

とはいえ、ナチスという過去を持つドイツにとって、AfDの台頭は特に神経を使う問題だ。同党は移民流入の多さやインフレの高進、費用のかかる「グリーン移行」政策をめぐって現政権を激しく批判している。

ドイツの情報機関である連邦憲法擁護庁は、AfDの青年組織を「過激派」と認定し、「人種差別的な社会概念」を広めているとしている。また同庁トップは、対ロシア制裁に反対するAfDが、ウクライナ情勢に関するロシア側のプロパガンダを流布することに協力したと批判している。

ドイツの主要政党はAfDとの協力を拒否して同党を政権から締め出してきたが、AfDの批判者は、AfDがドイツの政界主流をさらに右寄りに引きずるのではないかと懸念している。

デュッセルドルフ大学で政治学を研究するステファン・マーシャル氏は、「移民などの課題をめぐる論調がとげとげしいものになっている」と語る。

移民問題はドイツの政治課題の中で比重を高めつつある。東部ザクセン州のミヒャエル・クレッチマー州首相は中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)出身だが、先週、移民の数が「多すぎる」と述べ、難民受け入れ数の制限と、給付の削減を訴えた。

<グリーン移行のコストは>

CDUのフリードリヒ・メルツ党首、AfDと多少なりとも比較されることを拒んでおり、4日に出したコメントでは、CDUの主張はAfDのものと「似ているところなどまったくない」と語った。

一方、フェーザー内相は、反移民感情を扇動し、難民への暴力を助長した責任の一端はAfDにあると非難している。AfDはこれを否定している。

またAfDは人類の活動が気候変動の原因になっているとすることに異議を唱えており、化石燃料からの脱却に伴うコストに関する一部有権者の懸念も利用してきた。

AfDのティノ・クルパラ共同党首によれば、ショルツ政権の連立パートナーであり、化石燃料からの移行の加速を要求している緑の党の政策が、「経済戦争やインフレ、脱工業化」をもたらすと評価する有権者が増加しているという。

「緑の党のような危険な党と連立を組むことのない政党は、私たちAfDだけだ」とクルパラ氏は言う。

2024年に州議会選挙が行われるドイツ東部のチューリンゲン州、ザクセン州、ブランデンブルク州では、AfDが初めて第1党になろうとしており、世論調査では23-28%の支持を集めている。

アナリストによれば、旧東独地域では有権者の支持政党があまり固まっておらず、AfDを受け入れる余地がある。統一から30年経った現在も旧東独地域の低所得傾向は続いており、その責任は長年にわたって政権交代を繰り返してきた主要政党にあると有権者が考えていることも理由の一端だという。

連立政権から排除されているとはいえ、AfDの台頭は他党の票を奪っており、州と国政双方のレベルで連立がより不安定にならざるをえない。AfDの支持が最も高い旧東独地域では、それが顕著だ。

<不満のうねり>

マンハイム大学で政治学を研究するマルク・デブス氏によると、一部の有権者たちのあいだでは、特に保守政党は左派と協調するのではなく、正式な連立には至らないまでも、もっとAfDとの連携を強めるべきだという声が強まる可能性があるという。

AfDの主張の中には、地方政治レベルで主要政党支持の有権者から賛同を得ているものもある。ザクセン州にあるバウツェンという小都市では昨年12月、難民申請が却下された移民には、ドイツ語講座などの支援措置を削減するというAfDの提案に、CDU議員が賛成票を投じた。

CDUバウツェン地区委員会のトップを務めるマティアス・グラール氏は、「AfDを皆ナチスと同一視して排除している中央政界の教条主義的なやり方は間違っている」と語る。

他方で、AfDは複数の危機が一時的に重なったことに伴う不満の高まりに便乗しているだけだという見方もある。インフレもすでに峠を越え、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い冬季に急騰したエネルギー価格も落ち着いてきた。

ショルツ政権のウォルフガング・ビューヒナー報道官は、同政権はAfDへの支持を徐々に抑え込んでいけると確信していると語る。

「ショルツ首相は、私たちが良い仕事をしてドイツの問題を解決していけば、この件について心配する必要がなくなる日もそう遠くないと楽観している」と、同報道官は話した。

(翻訳:エァクレーレン)

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