ニュース速報

ワールド

焦点:米極右「プラウド・ボーイズ」リーダー、捜査協力者だった過去

2021年01月28日(木)17時28分

1月27日、 米国社会を最近騒がせている白人至上主義の極右団体「プラウド・ボーイズ」のリーダー、エンリケ・タリオ氏(写真)は、2012年に詐欺罪で捕まった後、連邦や地元の捜査当局の有能な情報提供者として多くの「手柄」を立てた過去があった――。米ワシントンで2020年11月、米大統領選結果に対する抗議集会の現場で撮影(2021年 ロイター/Hannah McKay )

[ワシントン 27日 ロイター] - 米国社会を最近騒がせている白人至上主義の極右団体「プラウド・ボーイズ」のリーダー、エンリケ・タリオ氏(36)は、2012年に詐欺罪で捕まった後、連邦や地元の捜査当局の有能な情報提供者として多くの「手柄」を立てた過去があった――。元検察官の証言やロイターが入手した2014年の連邦裁判所の公判記録で、こうした事実が明らかになった。

フロリダ州マイアミでのタリオ氏の公判では、検察官や米連邦捜査局(FBI)捜査官、タリオ氏の弁護士らが口をそろえて、同氏が幾度も潜入調査に携わり、薬物取引から賭博、密入国あっせんまで様々な事件で当局が13人を訴追する手助けをしたと述べていた。

タリオ氏は26日、ロイターの取材に対してこれを否定。公判記録について質問すると「そんなものは知らない。何も思い出せない」とけんもほろろだった。

しかし、司法関係者の証言やこの文書の内容は、タリオ氏の主張と正反対だ。タリオ氏の事件を担当した元連邦検事のバネッサ・シン・ジョアンズ氏は書面を通じてロイターに、タリオ氏がマイアミのマリフアナ栽培施設から医薬品詐欺に至るまで、さまざまな犯罪組織を訴追につなげるため、地元や連邦政府の法執行機関に協力したと認めた。

プラウド・ボーイズは、彼らが「アンティファ(反ファシズム運動)」と信じる極左勢力に対抗するために結成され、今月6日の連邦議会議事堂襲撃占拠に関与したことでも有名。そのリーダーで法執行機関から徹底的に監視されているタリオ氏が、実は以前に刑事犯罪摘発に力を貸していたというのだから、驚きを禁じ得ない。

議事堂襲撃事件の2日前、首都ワシントンに乗り込んだタリオ氏は当地の警察に拘束された。高性能ライフルの弾倉を2つ所持していたことと、昨年12月にトランプ前大統領支持者が行ったデモのさなかに「黒人の命は大事(BLM)」運動の旗を燃やした罪に問われたためだ。ワシントンの裁判所は襲撃事件前に、タリオ氏に市内からの退去を命じていた。

その結果、タリオ氏自身は襲撃事件に参加しなかった。しかし、プラウドのメンバー少なくとも5人が暴動参加で訴追されている。FBIはこれまでに、事件に先立ってタリオ氏を拘束したのは、6日の議事堂での政治的行事をにらんだ予防措置だったとしていた。

これほど物騒なタリオ氏が、法執行機関と関係があったという別の顔を見せたのが14年の公判記録だった。当時の公判で、担当検事とタリオ氏の弁護士がともに判事に対して、他の2人の被告とともに刑期を短くしてほしいと嘆願。タリオ氏らは、糖尿病検査キットの盗品の販売とラベル付け替えの詐欺行為を認めていた。

担当検事は刑を軽くする要求の理由として、タリオ氏がもたらした情報のおかげで、2つの事件で計13人を連邦法で訴追できたことなどを説明した。タリオ氏の弁護士を務めたジェフリー・フェイラー氏も法廷で、タリオ氏がさまざまな事件で潜入調査を行い、多くの訴追につなげた協力者だったと強調。

一例として、密入国捜査でタリオ氏が自ら危険を冒して組織と接触し、架空の家族を米国に密入国させるのに1万1000ドルを支払う取引を持ちかけ、摘発に結びつけたと弁論した。このほどフェイラー氏に取材すると、当時の裁判の詳細は覚えていないとしながらも「私は法執行機関と検察が与えてくれた情報に基づき、法廷で情報提供した」と話した。

公判ではFBI捜査官1人も、タリオ氏がマリフアナ、コカイン、MDMAといった薬物犯罪捜査で「重要な構成要素」だったと明言した。

それ以降もタリオ氏と当局の協力関係が続いていたという証拠はない。ロイターが何度も取材した限りでは、タリオ氏はプラウド・ボーイズの集会を各地で開く前には、警察に計画を知らせていたと述べているが、事実かどうかは不明。同氏によると、ワシントンの警察が同団体の取り締まりに乗り出した昨年12月12日以後は、そうした協調姿勢をやめた。

タリオ氏は26日の取材で、詐欺罪の判決で刑期が30カ月から16カ月に減ったことは認めつつも、あくまで詐欺事件を巡る数々の疑問を当局が「片付ける」のを自分と他の被告が手伝ったためだとし、別の事件には決して協力していないと主張した。

とはいえ14年の公判記録には、検事や弁護士、FBI捜査官だけでなく担当判事までも、タリオ氏が他の刑事事件捜査での容疑者訴追で「相当な支援」をしたと結論付けていることが明記されている。

トランプ氏の支持者は大統領選敗北に異を唱え、全米でしばしば暴力的なデモを展開してきた。その中でもタリオ氏は、ほぼ白人だけのプラウド・ボーイズのグループを率いて、ワシントンからポートランド、オレゴンに至る各地で、街頭での衝突や口論騒ぎで先頭に立って派手に闊歩する姿が目立っていた。

この団体は16年、「政治的公正さ」に抗議し、「男らしさの誇示を制限する風潮」に反発するために誕生。メンバーはやがて、街頭での抗争に備えて黒と黄の独特のユニフォームを着た集団になった。彼らを大きく有名にしたのが、昨年9月のトランプ大統領(当時)による呼び掛け、「プラウド・ボーイズよ、下がって待機せよ」のフレーズだ。マイアミに住むタリオ氏は、18年にプラウド・ボーイズの全国委員長に就任した。

タリオ氏はトランプ氏の選挙敗北後、昨年11月と12月にメンバーを率いてワシントンをデモ行進した。12月11日の映像には、大群衆の前でメガホンを手に「議会と盗まれたホワイトハウスにいる寄生者どもよ、お前たちは戦争を望み、それを手に入れたのだ」とタリオ氏が声高に演説し、歓声が上がる光景が映っている。その次の日に同氏はBLMの旗を燃やした。

元検事のジョアンズ氏は、かつて詐欺罪で訴追した被告が今、バイデン氏の大統領選勝利認定を阻止しようとした暴動での重要人物になっていることには、驚くしかないと話す。「彼が詐欺師であることは分かっていたが、まさか国内でテロを起こす男だとは、知るよしもなかった」とあっけにとられた様子だった。

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国が首脳会談要請、貿易・麻薬巡る隔たりで米は未回

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対

ワールド

アングル:インドでリアルマネーゲーム規制、ユーザー

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中