ニュース速報

ワールド

アングル:バイデン新政権、気候変動対策強化へ総力戦の布陣

2021年01月21日(木)09時26分

 米国のジョー・バイデン大統領は「政府が一丸となった」気候変動対策を公約している。写真は15日、デラウェア州ウィルミントンで撮影(2021年 ロイター/Kevin Lamarque)

Valerie Volcovici

[ワシントン 20日 ロイター] - 米国のジョー・バイデン大統領は「政府が一丸となった」気候変動対策を公約している。全米での温室効果ガス排出量を劇的に減少させるというバイデン新政権の目標を達成するには、国防総省から財務省に至るまで、すべての連邦政府機関の貢献が必要になるだろう。

この戦略は、もっぱら環境保護庁を通じて気候変動対応戦略を推進する傾向のあった歴代の民主党政権とは一線を画する。与野党伯仲状態にある連邦議会では包括的な気候変動対策法案を成立させるのは容易ではない。複数省庁による全政府的なアプローチであれば、そうした法制に頼ることなく、バイデン新政権が地球温暖化対策を推し進めることが容易になる。

気候変動問題に関してバイデン氏の政権移行チームに助言を行っている啓発団体エバーグリーン・アクションの共同創設者サム・リケッツ氏は「今や、あらゆる政府機関が気候変動担当だ」と語る(https://joebiden.com/climate-plan/)。

バイデン新政権の気候変動関連の政策課題において、連邦機関がどのような役割を果たす可能性があるのか、いくつか見ていくことにしよう。

<環境保護庁(EPA)>

EPAは環境に関して米国を代表する規制当局であり、バイデン新政権が気候変動抑制を強化し、規制を執行していこうとする際に、まずEPAの名が挙がるのは当然だろう。またEPAが、トランプ政権では一貫して廃止の方向にあったルールや科学的プロセスを再構築していく可能性もある。

<内務省>

国土の5分の1を管轄下に収める内務省が担うのは、2030年までに全米の土地・水域の3分の1近くを保全対象とするというバイデン氏の選挙公約だ。またトランプ政権で優先されてきた石油、天然ガス、石炭から、太陽光や風力、地熱といったクリーンエネルギー源へと移行していくなかで、内務省がエネルギー・鉱物資源開発のリース権プログラムの見直しを進める可能性が高い。バイデン氏は連邦が管理する土地・水域における新規の石油・天然ガス採掘を中止すると公約しており、この政策については内務省が主導する必要がある。

<エネルギー省>

高度な原子力発電、核融合、バッテリー、バイオ燃料といった技術も含め、クリーンエネルギーの研究開発プログラムへの取り組みの先頭に立つのがエネルギー省だ。バイデン氏は、最終的に米国における温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにするよう、クリーンエネルギー技術に巨額の公共投資を振り向けると述べている。

<国防総省>

連邦政府機関の中で、化石燃料の購入量で単独首位に立つのが国防総省だ。啓発団体エバーグリーン・アクションがバイデン氏の政権移行チームに送った覚書では、国防総省が巨大な調達能力によって「クリーンでレジリエントな(回復力のある)エネルギー技術や先進的な低炭素燃料を購入し、国内のレジリエンス(回復力)を高めるとともに、社会を揺るがす気候変動の脅威の克服に資する産業の構築に寄与する」ことも可能だとされている。

<財務省>

財務省では、金融規制改革法(ドッド・フランク法)を利用して、銀行その他の金融機関に対し、投資の際に気候関連リスクを織り込むよう義務付けるかもしれない。そうなれば民間投資の大きな流れがクリーンエネルギーに向かうだろう。また、連邦政府による対外融資プログラムに関して、国外での高炭素プロジェクトへの投資を禁じるような基準を財務省が創設する可能性がある。

オバマ政権下でホワイトハウスの「環境の質に関する審議会」座長を務め、バイデン氏の政権移行チームでも気候変動対策に向けた連邦機関活用のためのロードマップ「クライメート21」(https://climate21.org/)の共同執筆者となったクリスティ・ゴールドファス氏は、「財務省は今後、気候変動問題に関してかなり重要なプレイヤーになっていくと考えている」と話している。

<農務省>

農業は米国の温室効果ガス排出量のうち9%を占めている。反面、やはり農務省の管轄である国内の森林地域は、化石燃料による年間排出量の最大15%を吸収している。農務省は排出権制度を通じて、排出量の削減・相殺に寄与している農家、酪農家、森林所有者に給付を行うことが可能だ。またバイデン氏に助言している政策専門家によれば、農務省は「気候変動に配慮した農業」の促進に向けて農作物保険を活用することもできるという。

<教育省>

教育省は、気候変動に関する意識向上をめざす専門教師・講座に対して連邦政府の財源を回すことができる。また、その調達能力を活かして、通学バスへの電気自動車導入や学校建築の環境最適化を支援することもできる。

オバマ政権で教育長官を務めたジョン・キング・ジュニア氏は、「K-12(幼稚園─高校)レベル、また高等教育機関において、再生可能エネルギーや建築物の改良、電気自動車やインフラといった分野での就業につながる専門教育に新たな投資を行うチャンスもたくさんあるのではないか」と語っている。

<司法省>

司法省で環境関連の法執行を担当する弁護士を務めていたケイト・コンシュニック氏によれば、司法省は新政権の気候変動対応政策をめぐる訴訟で被告の立場に立たされることになるが、その一方で、連邦政府を当事者とする気候問題に関わる民事訴訟を優先する、環境汚染企業との和解に向けて補助的な気候対策プロジェクトを提案する、大企業に対する法執行活動を強化するといった動きもありうるという。

またバイデン氏は、気候変動対策の計画のなかで、気候変動・環境関連の司法活動を優先すべく、司法省内に環境・気候問題担当部門を創設すると述べている。

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ファーウェイ、チップ製造・コンピューティングパワー

ビジネス

中国がグーグルへの独禁法調査打ち切り、FT報道

ビジネス

ノボ、アルツハイマー病薬試験は「宝くじ」のようなも

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中