ニュース速報

ワールド

中国がチベットで労働移動政策強化、職業訓練へて建設現場などに

2020年09月22日(火)17時43分

 中国政府は、チベット自治区の農村部の労働者を最近建てられた軍隊式の訓練施設に移動させ、工場労働者になるための訓練を受けさせる政策を拡大している。写真はラサのポタラ宮殿と中国国旗。2015年11月撮影(2015年 ロイター/Damir Sagolj)

[北京 22日 ロイター] - 中国政府は、チベット自治区の農村部の労働者を最近建てられた軍隊式の訓練施設に移動させ、工場労働者になるための訓練を受けさせる政策を拡大している。新疆ウイグル自治区でも同様のプログラムが進行しており、人権擁護団体からは強制労働として問題視されている。

国営メディアの多数の報道やチベットの政府機関の政策文書、ロイターが確認した2016─20年発行の調達申請書によると、中国政府はチベットの農村部労働者の自治区内外への大量移動について割当人数を設定した。

チベット自治区政府のウェブサイトに先月、掲載された通知は、この政策の一環として2020年1─7月の期間にチベット自治区の人口の約15%に相当する50万人以上が訓練を受けたとした。このうち、5万人近くが自治区内の仕事に就くために移動させられ、数百人が他の地域に送られた。多くは繊維製造や建設、農業を含む低賃金の業種に従事することになった。

チベットと新疆を専門とする独立系の研究者、エイドリアン・ゼンツ氏は「チベットの伝統的な暮らしに対する、恐らく文化大革命以降で最も強力、最も明白かつ的を絞った攻撃だというのが私の見解だ」と述べた。同氏がまとめたチベット族を標的とする労働政策の核心的部分について調査結果は、ワシントンを本拠とするシンクタンク、ジェームスタウン財団が今週公表した報告に詳細に記されている。同氏は「遊牧生活や農業から賃金労働への強制的な生活様式の変更だ」とした。

ロイターはゼンツ氏の調査結果を補強する追加の政策文書や企業の報告書、人材調達の申請書、同政策について伝えている国営メディアの報道を入手した。

中国外務省はロイター宛ての文書で、強制労働が伴っている可能性を強く否定。中国には法の支配があり、労働者は任意で働き、適切な報酬を得ているとした。

「秘められた狙いがある人々が呼ぶところの『強制労働』は断じて存在しない」とした。

農村部の余剰労働力を製造業に振り向ける政策は中国による経済振興と貧困削減の取り組みの主要部分を成してきた。ただ、人権擁護団体によると、新疆やチベットのように少数民族が占める割合が大きく、歴史的に政情が不安定な地域では、職業訓練プログラムは思想教育に過度に重きを置いているという。さらに、政府が設定する労働移動の割り当て人数の設定や軍隊式の管理は、強制的な要素があることを示唆していると、これら団体は指摘する。

新疆での職業訓練の一部は、大規模な収容施設との関連が指摘されている。国連の報告書は、ウイグル族を中心に約100万人が収容所に収容され、思想教育を受けているとしている。中国政府は当初、収容施設の存在を否定していたが、その後は職業教育施設と説明し、全ての人が「卒業した」と主張している。

ロイターは移動したチベット人労働者の状況を確認することができなかった。チベット自治区に外国人記者が入ることは認められていない。

チベットでは過去にも、軍隊式の訓練や労働移動の存在を示す動きが多少あったが、大規模なものが判明したのは初めてで、自治区外への労働者の移動について割当人数が公に設定されたのも前例がない。

中国国家統計局の2018年のデータによると、チベット自治区の人口の約7割が農村部人口に区分されている。その多くは自給自足農民で、基本所得に基づく政府の貧困削減策で課題となっている。政府は農村部の貧困を2020年末までに撲滅する方針を打ち出している。

チベットの人材・社会保障部門は7月に出した作業計画で、農村部労働者の所得への下押し圧力の増大に対応し、「技能訓練を強化し、組織的かつ大規模な雇用の移動を州や地域、都市をまたぎ実施する」としている。異なる地域の2020年の移動人数の割り当ても含まれた。

政府の政策下で移動させられた労働者を追跡するのは困難を伴う。オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の報告書によると、新疆からウイグル族を大量移動する政策では、83の多国籍企業のサプライチェーンの生産に従事していることが判明した。

チベットの国営メディアによる7月の報道によると、2020年に自治区外に移された労働者の一部は青海省と四川省の建設事業に送られた。自治区内で移動した労働者は繊維、安全保障、農業生産関連の訓練を受けた。

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:日米為替声明、「高市トレード」で思惑 円

ワールド

タイ次期財務相、通貨高抑制で中銀と協力 資本の動き

ビジネス

三菱自、30年度に日本販売1.5倍増へ 国内市場の

ワールド

石油需要、アジアで伸び続く=ロシア石油大手トップ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中