ニュース速報

ワールド

焦点:温暖化阻止へ肉食メニュー排除 ダボス会議に問われる本気度

2020年01月25日(土)11時19分

 ビーガン料理人のマクニッシュ氏は、ダボス会議で料理を担当するよう招請されたとき、驚きはしたものの、即座に承諾のサインをした。同氏はダボス会議に集まる各国首脳、政治家、CEO、有識者、著名人の一部のために、ビーガン/ベジタリアン料理を用意するシェフたちの1人。写真は会場で撮影(2020年 ロイター/Denis Balibouse)

Belinda Goldsmith

[ダボス(スイス) 21日 トムソン・ロイター財団] - カナダ人のビーガン(完全菜食主義)料理人ダグ・マクニッシュ氏は、スイス・アルプスに世界の要人が集まる年1回のダボス会議で料理を担当するよう招請されたとき、驚きはしたものの、即座に承諾のサインをした。

37歳のマクニッシュ氏は、世界経済フォーラム(WEF)がダボスで開催する第50回年次総会に集まる約3000人の各国首脳、政治家、CEO、有識者、著名人の一部のために、ビーガン/ベジタリアン料理を用意するシェフたちの1人である。

ゼーホフ・ホテルのキッチンで野菜を刻みながら、マクニッシュ氏は、いつも、もっと多くの人に肉食を止めるよう働きかけている、と語る。国連のデータによれば、農業・家畜は地球温暖化につながる温室効果ガス排出量全体の11%を占めているからだ。

気候変動がダボス会議における主要テーマになる中で、主催者らは、「Future Food Wednesday(将来の食を考える水曜日)」に向け、史上初めて、主要会場であるコングレスセンターにおけるメニューから肉・魚を排除し、地産地消への関心の高まりを受けて、バナナを禁止した。

マクニッシュ氏は21日、トムソン・ロイター財団に対し、「ここでの調理は私にとって、ビーガン食がどれほど素晴らしいものになりうるかをグローバルな規模で示すチャンスだ」と語った。このとき彼は、23日のディナーに向けて、テンペ(インドネシア発祥の大豆の発酵食品)のコロッケとビーガン風カマンベールフライの準備に取りかかっていた。

右前腕に「vegan(ビーガン)」という文字、左腕にはカラフルな果物・野菜を取り混ぜたタトゥーを入れたマクニッシュ氏が、食に関してどのような立場を取っているかはきわめて明快だ。

伝統的な修業を積んできたシェフであるマクニッシュ氏がビーガンになったのは15年前。それ以来、ビーガン料理書3冊のうち2冊が国際的な賞を獲得している。トロントでさまざまなレストランを経営しつつ、ビーガン食材をどのようにメニューに導入していくかアドバイスを提供している。

彼は、講演者をあちこちに移動させるためにホテルの外で待機する4輪駆動車や、多くの富豪がプライベートジェットで来場する現実を受け入れており、「変化には時間がかかる」と述べている。

「人々が料理を味わって、『これは驚いた、素晴らしい、これがビーガン料理だとは信じられない』と言ってくれれば、私にとっては、それが今週の成功だ」とマクニッシュ氏は言う。彼は『ミート・ユア・ミート(あなたが食べる肉はこうして作られる)』と題する工場的畜産に関するドキュメンタリーを観て、動物性食品を使わなくなった。

「ビルケンシュトックばかり履くヒッピーにならず、贅沢な生活を送りつつ、それでも動物性食品を口にしないことはできる」

<気候変動への抗議>

WEFはここ数年、ダボス会議を環境に優しいものに変えていく動きを強めており、2020年の会議テーマとして「持続可能性」を選択した。

WEF関係者は、4年連続で、航空機での移動も含めた温室効果ガス排出量を100%オフセット(相殺)するなど、さまざまな取り組みを通じて、4日間にわたる会議の環境負荷はゼロになるだろうと述べている。

こうしたオフセットは、アマゾン熱帯雨林での持続可能性プロジェクト、中国、マリ、インド、南アフリカへの高効率調理用コンロ普及、地元農場でのバイオガス生産などへの投資によって実現されている。

WEFの広報担当者オリバー・キャン氏は、ダボス会議で公式に用いられる車両の90%はハイブリッド車または電気自動車になっており、今年は食品廃棄を測定する手段としてAIを試し、ほとんどの食品は地元で調達すると話していた。

あいかわらずプライベートジェットでの来場は続いているが、今年はチューリヒ空港で合成燃料と従来のジェット燃料を混ぜた低炭素燃料が販売されている。

「リーダーシップを見せることに尽きる」とキャン氏は言う。

だが、気候の非常事態を宣言する国や都市が増加し、活動家が街頭デモに繰り出すなかで、政治・ビジネスのリーダーたちにとって、この問題はますます切迫感を増している。

21日にWEFが発表したグローバル規模の世論調査によれば、30カ国約1万500人の回答者のうち、3分の2以上が、地球温暖化は人間活動が原因であると考えている。

17歳のグレタ・トゥーンベリさんは21日、席を埋め尽くした聴衆に向かい、1年前の自身の発言を繰り返して、「私たちの家はまだ燃え続けている」と語った。「あなたたちが行動しないことが火に油を注いでいる」

ダボスの中心街では、2日間のトレッキングを経てスキーリゾートにたどり着いた小規模な抗議グループが、気候変動対策の不足を批判している。

オルテン(スイス)から来た学生のマリラさん(19歳)は、フルネームを明かすことは拒否しつつ、トムソン・ロイター財団に対し「これは私たちが今日直面する最も重要な問題だ」と語った。

「何も手を打たなければ、人類は滅びるだろう」

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏LVMH会長「欧州も譲歩必要」、トランプ氏との貿

ビジネス

来年4月以降の国債買入計画、長期的な視点で検討を=

ワールド

NATO、防衛費をGDPの3.5-5%に引き上げへ

ビジネス

トランプ氏、住宅金融公社2社の上場「真剣に検討」 
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 4
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 5
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 6
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 8
    子育て世帯の年収平均値は、地域によってここまで違う
  • 9
    トランプは日本を簡単な交渉相手だと思っているが...…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「自動車の生産台数」が多い…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 5
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 8
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 9
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 10
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中