ニュース速報

ワールド

焦点:台風・地震被害で7─9月期GDPマイナスも、2段階の補正編成構想

2018年09月13日(木)13時49分

 9月13日、北海道胆振東部地震や台風21号などの自然災害が立て続けに発生し、広範囲に深刻な被害をもたらしている。一部では7─9月国内総生産(GDP)が前期比マイナスになるとの予想も浮上している。写真は台風21号の直撃で増水した河川。4日に兵庫県西宮市で撮影(2018年 ロイター/TWITTER/ @R10N_SR)

[東京 13日 ロイター] - 北海道胆振東部地震や台風21号などの自然災害が立て続けに発生し、広範囲に深刻な被害をもたらしている。中でも関西空港や新千歳空港の機能が影響を受け、地域経済をけん引してきたインバウンド消費を直撃。一部では7─9月国内総生産(GDP)が前期比マイナスになるとの予想も浮上している。政府・与党内では今秋と年末に2回の補正予算を編成し、初回の補正予算は10月下旬に召集予定の臨時国会冒頭で提出するとの観測が出ている。

<災害被害、北海道などの生産下押し>

三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア・マーケットエコノミスト、戸内修自氏によると、今回の自然災害による成長率への影響は、1)生産活動の停滞(設備被害、サプライチェーンのき損、節電による稼働率低下)、2)財貿易への影響、3)インバウンド消費の下押し──などがマイナス要因となる。

このうち電力供給の制約が11月まで継続しそうで、戸内氏は「9月の鉱工業生産が北海道で1割以上、国全体として0.2%以上の下押しになってもおかしくない」と分析している。

みずほ証券のシニアマーケットエコノミスト、末廣徹氏は「7―9月期は、生産が0.1―0.2%は抑えられるのではないか。落ち着いてくれば挽回生産も行われるため、年単位でみれば影響はそれほど大きくないかもしれないが、7─9月のGDPはマイナス成長も視野に入る」とみている。

<インバウンドへの打撃、長期化観測>

また、戸内氏は関西空港経由の財貿易は金額ベースで国全体の6%程度を占め、電子部品や通信機、医薬品などの取り扱い品目には、影響が出ると予想する。

さらに大きな影響が出そうなのはインバウンド分野だ。観光庁によると、2017年の訪日外国人全体の旅行消費額(速報)は4兆4161億円だった。前年(3兆7476億円)に比べて17.8%増となり、4兆円を初めて突破した。

法務省の出入国管理統計では、2018年7月の外国人入国者が264万7875人で、このうち新千歳空港は18万0936人、関空は66万2770人が利用。両空港の利用者は全体の31.9%を占めた。

戸内氏によると、2016年4月の熊本地震直後は、九州を訪れる外国人観光客がいったん減少し、それ以前のトレンドに復帰するのに1年弱の期間がかかった。また、九州以外を訪れる外国人も伸び悩み、影響が被災地以外にも及んだことがうかがわれる。これらを総合すると、7─9月期のインバウンド消費は、1割程度下押しされ、10─12月期の回復ペースも緩慢になる恐れがあると予測している。

<予備費投入先行、10月下旬に1回目の補正編成へ>

こうした状況を踏まえ、政府も一丸となって復旧に取り組む構えだ。麻生太郎財務相は7日の記者会見で「(台風21号や6日未明に発生した北海道胆振東部地震に伴う被害の)全貌や、予算の使用状況を見極めた上で、必要に応じて対応する」と語った。

政府は、2018年度当初予算で予備費3500億円を計上。このうち豪雨被害や地震による被災地域の緊急支援に必要な経費などで、今月10日までに累計で1705億6983万の使用を決定した。

その結果、残りの18年度予備費は1788億8892万円となった。

今後編成する補正予算案は、豪雨被害と同様に「災害級」(菅義偉官房長官)とされた酷暑も踏まえ、安倍晋三首相の自民党総裁3選後に本格的な調整に入る見通し。

ある政府関係者は「しばらくは予備費の追加投入が続き、その後は復興も見越した補正編成の議論が本格化するだろう」と指摘する。

与党関係者の1人は「河川堤防の修理やブロック塀の設置費用に加えて、小中学校のクーラー設置費用なども主要な歳出項目に並ぶだろう」との見通しを示す。

補正予算は、税収見積もりの変更と合わせて、年末までに編成することが多い。ただ、今回は災害対応を急ぐため、今秋と年末の2回、補正予算を編成することになりそうだ。

(マクロ政策取材チーム 編集:田巻一彦)

ロイター
Copyright (C) 2018 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

バイデン氏、半導体大手マイクロンへの補助金発表 最

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中