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焦点:貿易戦争が米企業に迫る「メイド・イン・チャイナ」再考

2018年08月25日(土)15時35分

浙江省杭州市で2018年6月、輸出用自転車部品工場で働く女性(2018年 ロイター)

[深セン/上海 20日 ロイター] - 約30年前、低コストの世界製造拠点として発展しつつあった中国南部にやってきたラリー・スローブン氏は、これまでに電動工具からLED照明器具に至る数百万ドル規模の製品を、米国の大手小売業者向けに輸出してきた。

そうした時代は終わりを迎えつつあるのかもしれない。

生産コストの上昇や規制強化、さらにサービス業中心の持続可能な経済構築を目指す中国政府の政策がローエンドの製造業を圧迫したことによって、スローブン氏の利益は年々削られてきた。

しかし、最後の一撃となるのは、米中貿易戦争によって高まる新たな関税リスクや、世界で台頭する保護主義だろう。

「一歩、また一歩、さらにもう一歩と、中国での製造コストはどんどん高くなってきていた」と語るスローブン氏。彼は米フロリダ州ディアフィールドビーチに本拠を置く家電製造キャップストーン傘下のキャップストーン・インターナショナル(香港)の社長を務めている。

広範な経済近代化策の一環として、中国政府がローエンドの製造業からハイテク産業へと優遇対象を転換する中で、製造業界はその圧力を感じてきた。

だが関税が発動される中で、「皆ついに目が覚めて、現実に向き合おうということになった」とスローブン氏は語る。製造業界は、「次の関税措置がとどめを刺すかもしれない」と懸念を深めているという。

スローブン氏は、中国でのエクスポージャーを減らして、タイなど成長する製造拠点に足場を広げようとしている。

「チャンスがありそうなのは、タイ、ベトナム、マレーシア、そしてカンボジアだ」とスローブン氏。「だが、皆が思うほど簡単ではない。中国で次に何が起きるのかも分からない」

医療機器から農業用具に至る米国の製造メーカー10数社をロイターが取材したところ、自国向け輸出を手掛ける企業が、どのように中国における製造戦略を見直そうとしているかが浮き彫りになった。

「関税の話が出る前は、生産全体の3割を中国から米国に移すことを検討していた」と、医療製品の米製造会社プレミアガードで欧州ディレクターを務めるチャールズ・ハブス氏は言う。賃金上昇や労働力の縮小、コスト急騰が、その理由だった。

「最近の関税を巡る動きを受け、実際に関税が発効するならば、生産の6割を中国から米国に移すことになるだろう」

他の米国企業も、選択肢を急ぎ検討している。

「現在の関税環境を踏まえれば、われわれのような企業が、社内でその影響を試算し、その軽減策を講じることは、自然なことだ」と中国を拠点とする米大手製造企業の幹部は語った。

対策としては、「中国からの調達拡大を控え、他の国からの調達に切り替えるか、雇用を米国に再移転する」ことなどが検討されるという。

<脅かされるサプライチェーン>

トランプ米大統領が、中国製品に対して追加的な関税発動を脅していることもあり、報復的な貿易戦争の拡大は、深く絡み合い、グローバル化したサプライチェーンに甚大な影響を与える可能性がある。

直接的な打撃を受ける企業もある。

米ジョージア州を拠点とする農業機械メーカーAGCOは、米通商代表部(USTR)に対し、江蘇州常州市で製造している農業器具が、関税措置により米国で「価格競争力を失う」と警告した。

化学メーカーのマルーン・グループも、「価格面で市場から追いやられる」と警鐘を鳴らす。米ヒューストンで中国製部品を使ってエアコンを組み立てているグッドマン・グローバルも同様の悩みを抱える。

すでに対策に動いた企業もある。アットホーム・グループやRHといった米家具メーカーは、中国生産を減らすことを明らかにした。

サプライチェーンの調整で対応しようと試みている企業もある。蘭栄養食品ロイヤル傘下のDSMチャイナは、中国政府による報復関税を避けるため、原料となる米国産大豆をえんどう豆パウダーなどに置き換えられないか、検討している。

貿易摩擦リスクが高まったことで、「ビジネス全体の見方を再確認するよい機会となった」と、DSMチャイナでグローバル戦略マーケティング責任者を務めるバーナード・チュン氏は語る。

また、サプライチェーンのどこに位置しているかによっても、対応は変わってくる。

米GMMノンスティック・コーティングスは、中国において、米調理器具メーカーのジョージ・フォアマンやベイカーズ・シークレットなどからの製品コーティング用薬品受注が3─4割減少したことを受け、一部の生産をインドに移した。

これらの顧客は、生産の一部を中国から移転しているという。

「この関税騒ぎで、中国に拠点を持つことに対する圧力が一層高まり、米国企業の調達部門が(生産移転を)極めて容易に決断できるようになっている」と、GMMのラビン・ガンジー最高経営責任者(CEO)は語る。

<2兆ドルの問題>

とはいえ、現段階では、中国にとどまる米国企業も多数存在する。特に中国やアジア地域の巨大市場を狙う企業はなおさらだ、とGMMのガンジーCEOは指摘する。

中国には依然として最適なインフラやサプライチェーン、エンジニアの人材があり、低コストをテコに企業誘致を狙う他の国々にとって、大きなハードルになっている、と業界幹部らはロイターに語った。

規模の面をみても、中国に代わる存在はそうは現れない。米シンクタンクのブルッキングス研究所が7月発表した報告書によると、中国製造業の生産額は約2兆ドル(約220兆円)で、世界最大だった。

米カリフォルニア州サンタモニカに本拠を置く電動キックスクーター製造スタートアップのバードは、「バードの規模やニーズに合う電動スクーターを生産できる業者は、米国にはいないと認識している」と、6月にUSTRに提出した意見書で述べている。

同じく中国でスクーターを製造する米新興企業バイテロジックスを率いるキース・シーラッツ氏は、中国からの生産移転は難しいと話す。その代わり、当面はコスト上昇分を負担する一方で、関税影響を受けにくい欧州での事業を拡大する考えだという。

中国の製造業が一夜で消えることはないにせよ、生産拠点のシフトは避けられない──。そう語るのは、特殊な業務用輸送梱包材の製造を手掛ける米プロコンパシフィックで、上海を拠点とするアジア事業の責任者を務めるダン・クラッセンスタイン氏だ。

中国政府が環境汚染源となる利幅の少ない産業に対する締め付けを強めたことで、より安価な労働力を求めて、南アジアや東南アジアへの製造拠点の移転を始めていた、と同氏は語る。

関税強化は「その動きを加速するだけだ」と付け加えた。

プロコンパシフィックは、約5年前まで全ての製造を中国で行っていたが、現在は4分の1をインドで、5─10%をベトナムで製造している。

<そろばん勘定>

中国南部の珠江デルタでは、産業や商業用拠点の賃貸コストが、この8年で8割上昇。一方で、企業側は、労働コストの急騰に不満の声を漏らしている。

「生産コストは、米国の方が中国より安い」と、化学メーカー、ワンダフル・グループのマーケティング担当Yuan Juyou氏は言う。「労働コストは高いが、生産工程の多くが自動化されている。それに加え、電気代や土地代などは、中国より安い」

中国製造会社マルコ・ポーロ傘下のワンダフル・グループは、6月に米テネシー州の新工場から製品出荷を始めた。

アジアの競合国も、中国の地位を脅かす機会をうかがい始めている。

タイは、自国をアジアの生産ハブとして積極的に売り込んでおり、特定産業における最大8年間の法人税免除や、一部原材料の輸入関税免除などのインセンティブを提供している。

タイ投資委員会によると、同国の法人税率は20%で、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の中で2番目に低い水準だ。

タイはすでに、一部家電製品や部品の主要な生産拠点となっており、政府は対象産業の振興を図るため、数カ所の工業団地建設を計画している。

中国とASEANの自由貿易協定も、米中両国と取引している企業にとって、貿易戦争リスクを軽減する効果がある。

「タイ政府は現在、大変容易に拠点を自国に移せるように努めている」と、前出のスローベン氏は指摘。

「かつて中国は、製造業を歓迎していた。だが今ではそこでの成長には関心がなく、ハイテクに注目している」とスローベン氏。「それは妻が夫に、もう愛していない、と告げるようなものかもしれない」

(Samantha Vadas記者, Adam Jourdan記者、Anne Marie Roantree記者、翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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