ニュース速報

ワールド

アングル:貿易戦争、中国街頭でじわり広がる「反米不買」の声

2018年08月19日(日)11時43分

 8月13日、一連の懲罰的な関税発表で米中貿易戦争をエスカレートさせているトランプ米大統領への中国当局者の対応はおおむね慎重で穏やかだが、北京や上海の街頭で感じる雰囲気は、もう少しピリピリしている。写真は北京で10日撮影(2018年 ロイター/Jason Lee)

[北京/上海 13日 ロイター] - トランプ米大統領はここ数週間、一連の懲罰的な関税導入を発表することで米中貿易戦争をエスカレートさせているが、中国当局者の対応はおおむね慎重で穏やかなものだ。

彼らは全般的に緊張を高めることを避け、特に好戦的コメントを発する役割は中国共産党の公式メディアに任せている。

だが、北京や上海の街頭で感じる雰囲気は、もう少しピリピリしている。

貿易戦争に対する懸念や中国政府の対応、そして米国製品がボイコットされる可能性について、ロイターが両都市を中心に、さまざまな属性の50人にインタビューしたところ、明らかな危機感やパニックは見受けられなかった。

中国政府が米国に対して取るべき対応については、意見の対立や混乱がみられた。政府は米国の国益に対して反撃すべきだという主張もあれば、どんな対応が可能か分からないという声もあった。

だが、中国市場に進出している米国企業にとって何よりも気がかりなのは、かなり少数派ではあるが50人中14人、つまり28%が「もう米国製品を買うのをやめたい」と考えており、一部はすでに米国製品をすべてボイコットしている、と答えたことだ。

それ以外の人々は、今後も米国製品の購入を続けるだろうが、将来的には変わるかもしれない、と述べてる。

もしこの結果が、中国国民の声を代弁しており、実際の行動が伴うならば、アップルのiPhone、ディズニー映画、スターバックスのドリンク、ゼネラルモーターズ(GM)の自動車などを筆頭とする米国製品の販売不振を招くかもしれない。それも、政府や活動家がけしかける不買運動がなくても、だ。

印象的だった北京五輪の開会式で、中国が愛国主義的な輝きに満たされてから10年、ナショナリズム感情はほぼ常に表面近くを漂っている。

今回の調査はサンプル数も非常に少なく、もちろん科学的なものではない。また中国では人々の警戒心が強く、外国メディアに本心を明かさないことも珍しくない。不適切と見られる個人的意見(習近平国家主席に対する批判などは、これに該当する)があれば、当局とのトラブルにつながりかねない。

とはいえ、インタビューを受けた50人が表明した意見は、単に好奇心をそそるというだけにはとどまらない。

今回の調査結果は、以下の通り。

●貿易戦争について懸念しているか

「懸念している」との回答は50人中11人(22%)にとどまり、39人(78%)は「懸念していない」と表明。

●トランプ政権による懲罰的関税に中国政府はどう対応すべきか

19人(38%)が「強く反撃すべき」と回答。その他は「国内経済開発への注力に回帰」「他の輸出市場を開拓」などさまざまな回答だったが、8人(16%)は「分からない」と答えた。

●米国製品の購入をやめるか

14人が「やめる」と答え、31人が「やめない」と回答したが、その一部は、貿易戦争が激化すれば考えが変わる可能性があると述べた。5人が「分からない」と回答。

インタビューを受けた人々のコメントをいくつか紹介しよう。

「もちろん懸念している。世界の経済大国の第1位と第2位の衝突なのだから」と語ったのは上海の証券会に勤めるカイ・キンさん(40)。「当事者は誰も貿易戦争への十分な備えができていない。米国の政策も含め、政策決定が急すぎる」

「率直に言って、米国はいつも傲慢すぎる。どこの国であろうと自国の工場扱いで、経済的な利益は自分たちが持っていく」と上海の鉄鋼業界で働くクー・シンジュンさんは語った。「トランプ大統領は中国に対して心理戦を仕掛けている。彼は中国を脅迫しようとしている。心理的な点から言えば、貿易戦争について思い煩うよりも、国内の開発に集中すべきだ。国と指導者を信頼して、この戦争に勝てると信じるべきだ」

北京の内装業者Zhang Shiyouさん(56)は、「中国は反撃すべきだ。それが、大国としての地位を示すことになる。中国はこの戦いに勝たなければならない」と語る。中国には他のマーケットがあり、習国家主席が掲げる「一帯一路」戦略もある。「中国人はアップルの携帯電話を買うべきではない。『自国製品を買い、中国を愛せ』という言葉どおり、自国製品を買うことが産業の追い風になる」

「米国製品の多くは実際には中国で製造されている」と語るのは河南省でテクノロジー系新興企業を設立した26歳のWei Shaochuanさんだ。「とはいえ、時間の経過とともに、貿易戦争で本当に反米感情がかき立てられるなら、私も米国映画を見ず、米国の音楽を聴かず、ディズニー作品を友人に勧めず、米国の文化製品に対抗するために、米国製はよくないとソーシャルメディアに投稿するようになるだろう」と、チャットサービス「微信」でインタビューに応じた。

「私は中国製品を強く支持している。ニュースを読んだ後は特に、あらゆる米国製品に対して強い抵抗を感じている」と北京の商店主Zhao Guoxinさん(61)は語る。「先日米国ショップに行き、今後は何一つ買わないと訴えると、相手はひどく居心地悪そうにしていた。正直に言って、米国をかなり不快に思っている」

「正直に言って、米国からの輸入が唯一のルートではない」と北京で看護師として働く20代のワン・ヤンキンさんは言う。「欧州から輸入することもできる。若い女性は、米国製スキンケア製品をいくつか使っている。関税が上がり続けるなら、日本や韓国など、他の国からの製品に乗り換えるかもしれない」

「中国は適切に反撃すべきだ」と北京の学生シュウ・ドンさん(25)は言う。「けれども、米国製品を買うのをやめるつもりはない。アップルなど一部の企業は、実際には税収と雇用をもたらしている。中国に貢献しているブランドだ」

「個人的には、素晴らしいことだ」と、貿易戦争を評価するのは、北京で船舶向けケータリングサービスに従事しているジュー・タオさん(34)だ。「私の給料は米ドル建てで、米中の貿易戦争が始まってから、ドルの対元レートは上がり続けている。とても助かっている。ありがたい話だ」

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2018 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日本、米ボーイング機100機購入や米産コメ輸入増で

ワールド

トランプ氏、FRBに3%利下げ要求 パウエル議長「

ビジネス

FRB議長後任指名を急がず、大統領が決定 ベセント

ワールド

関税交渉、合意見通し7月中旬に日本へ伝達 投融資の
MAGAZINE
特集:山に挑む
特集:山に挑む
2025年7月29日号(7/23発売)

野外のロッククライミングから屋内のボルダリングまで、心と身体に健康をもたらすクライミングが世界的に大ブーム

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    参院選が引き起こした3つの重たい事実
  • 2
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家安全保障に潜むリスクとは
  • 3
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量のカギは「ホルモン反応」にある
  • 4
    中国経済「危機」の深層...給与24%カットの国有企業…
  • 5
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 6
    アメリカで牛肉価格が12%高騰――供給不足に加え、輸入…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    三峡ダム以来の野心的事業...中国、チベットで世界最…
  • 9
    「なんだこれ...」夢遊病の女性が寝起きに握りしめて…
  • 10
    「死ぬほど怖かった...」高齢母の「大きな叫び声」を…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 4
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 7
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞…
  • 8
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 9
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量…
  • 10
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中