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アングル:車で攻撃、「原始的手法」回帰のなぜ

2017年03月27日(月)18時25分

 3月23日、過激派組織は、英ロンドンの国会議事堂周辺で22日発生した事件のような車両暴走型の攻撃に、ますます傾きつつあるようだ。写真はロンドンでの事件発生現場となったウエストミンスター橋に捧げられた花。24日撮影(2017年 ロイター/Darren Staples)

Chine Labbé and Adrian Croft

[パリ 23日 ロイター] - 過激派組織は、英ロンドンの国会議事堂周辺で22日発生した事件のような車両暴走型の攻撃に、ますます傾きつつあるようだ。低コストで計画しやすい一方で、防ぎにくいからだ。

専門家によれば、人々を自動車でひき殺すという戦術であれば、何らかの爆発物や武器を入手する必要もなく、テロリスト同士のネットワークを使わない「一匹狼」型の攻撃者でも実行可能だ。いずれも、治安当局に警戒されるリスクが低下する。

「この種の攻撃には特別な準備が必要ない。非常に低コストで、誰にでも実行可能だ」とフランス社会党の国会議員でテロ問題の専門家でもあるセバスチャン・ピエトラサンタ氏は語る。

「それは個人による行動の場合が多い」と同氏はロイターに語った。「きわめて自発的に行なわれる可能性がある」

警察が「テロリストによる攻撃」と称する今回の事件では、議事堂近くで車両が歩行者をなぎ倒し、襲撃犯が警察官をナイフで刺したことで4人が死亡、少なくとも40人が負傷した。容疑者は射殺された。

昨年のベルリンやニースの事件では、トラックを使って群衆を襲った。過去にパリやマドリッド、そして2005年のロンドンで起こった、爆弾や銃器で武装したチームによる組織的な攻撃とは対照的だ。

フランス革命記念日の祝賀ムードの中で花見見物客86人がトラックによる襲撃で殺害された昨年7月のニースでの事件と、トラックがクリスマス市場に突っ込み12人が殺害された昨年12月のベルリン事件の、いずれも過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出している。

今回の襲撃についても、ISが系列メディアを通じて23日に犯行声明を出した。総組織は現在、シリアとイラクにおいて厳しい圧力にさらされている。最後の拠点の1つであるモスルはイラク軍部隊による攻撃を受けており、これを支援する有志連合には英国も参加している。

ISは2016年、オンライン広報誌の読者に対し、自動車を殺傷手段として用いることを推奨している。

<イスラエルでの攻撃例>

車両による攻撃は、中東では目新しい戦術ではない。

2008年、当時は米大統領候補だったバラク・オバマ氏の訪問を控えたエルサレムの街路で、パレスチナ人の運転するブルドーザーが複数の自動車に突入し、少なくとも16人が負傷した。

同年1月には、やはりエルサレムで、別のパレスチナ人がトラックでイスラエル兵のグループに突っ込み、4人を殺害した。ネタニヤフ首相は、ISに刺激されたものである可能性が高いと語っていた。

元CIAアナリストのポール・ピラー氏は、長らく「先進的な、つまりハイテクな手法によるテロ攻撃に関心が集中していたが、多くの罪なき人々を殺害するための、最も容易に調達可能な方法は、常にシンプルで、高度な知識も訓練もまったく必要としない」と語る。

「その1つが、ごった返した街路で車両を暴走させて人々をひき殺すという方法だ。場所としては、たとえばクリスマス市場や国会議事堂近くのように、政治的・宗教的な意味のある場所が選ばれるかもしれない。とはいえ、多くの人々であふれる脆弱性の高い公共の場所はどこにでも見つかる」とピラー氏は語った。

欧州のシンクタンク、テロ分析センターのジャン=シャルル・ブリザール所長によれば、22日の攻撃は「構想としては原始的」に思われるという。

破壊兵器としての自動車の利用は、殺傷力があるだけに、武装勢力の間で高く評価されている戦術だとブリザール氏は言う。「自動車が使用された場合、ナイフやナタを使った場合と違い、はるかに多くの犠牲者を生むことになる」

「最近の攻撃は、ピストルやナイフ、自動車といった原始的な武器が使われるようになり、ますます予想しにくくなっている」と同氏は語る。

パリで治安コンサルタント会社テロリスクを経営するアン・ジュディセリ氏は、大都市におけるテロ警戒強化が、武装勢力による攻撃手法の変化を促してきたと言う。

「テロ攻撃や、未遂に終わった攻撃の後で新たな対策が施されるたびに、攻撃者たちはその対策を回避して隙を見つけるように適応してくる」と彼女は言う。

独シンクタンク、アスペン・インスティチュートのタイソン・バーカー計画担当ディレクターは、今回のロンドン攻撃について、「ソフト」ターゲットを保護することの困難さと、開放的な西側社会における治安と自由のトレードオフが浮き彫りになったと指摘する。

「攻撃の可能性をゼロにすることは決してできない。彼らの意図は、こうした開放性を閉ざすことなのだから、テロ対策としてはスマートな分析と強靱さ、警戒が求められるが、それは社会の開放性を閉ざすようなものであってはならない。それこそまさに、われわれが守ろうとしているものなのだから」とバーカー氏は言う。

バーカー氏は、今回の事件による影響予測は時期尚早だが、2015年に米カリフォルニア州サンバーナーディーノでIS支持者が起こした銃乱射攻撃は、現在は大統領の座にあるドナルド・トランプ氏が米国へのムスリム入国禁止という選挙公約を口にする契機となった、と述べている。

また、2月のベルリンにおけるクリスマス市場襲撃を契機に、ビデオカメラによる監視や、疑わしいと見られる難民申請者の留置や拘束に関するドイツの政策が大きく変わった。

テロ対策に関する仏当局者との協議のためにパリを訪れているサウジアラビア代表団のマンスール・アル・トゥルキ内務省報道官は、ISやアルカイダなどの組織が敗北すれば、脅威が拡散し、各国政府にとって新たな問題が生じる可能性があると語る。

「彼らがシリアとイラクで敗北すれば、われわれは皆、困難に直面することになる。IS戦闘員がどこに向かうのか誰にも分からない」と同報道官は記者団に語った。「われわれはソーシャルメディアと一匹狼が主導する新たなテロの段階に入ろうとしているのだと思う」

(翻訳:エァクレーレン)

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