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焦点:世論調査の信頼性が回復、ルペン氏の敗北予想実現するか

2017年03月23日(木)08時23分

 3月16日、世論調査は一貫してポピュリスト政党に対する支持を過小評価する傾向があるという投資家の懸念は、今月のオランダ下院選挙によって、いくらか和らいだようだ。実際の選挙結果が、世論調査の結果とほぼ整合していたからだ。写真は15日、オランダ下院選挙の候補者を確認する有権者。ハーグで撮影(2017年 ロイター/Michael Kooren)

John Geddie and Philip Blenkinsop

[ロンドン/アムステルダム 16日 ロイター] - 世論調査は一貫してポピュリスト政党に対する支持を過小評価する傾向があるという投資家の懸念は、今月のオランダ下院選挙によって、いくらか和らいだようだ。実際の選挙結果が、世論調査の結果とほぼ整合していたからだ。

昨年、欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)を決めた英国民投票や共和党のドナルド・トランプ氏が勝利した米大統領選において、事前の世論調査の結果からは反主流派感情の高まりが捕捉できなかったとの批判の声が起きていた。もっとも、どちらの結果も合理的な誤差の範囲内には収まっていたのだが。

15日に実施されたオランダ下院選挙で、ルッテ首相がライバルである極右ヘルト・ウィルダース自由党党首の挑戦を退けて勝利したことで、世論調査の精度に対する批判は、いくぶん沈静化したようだ。今後フランス、ドイツ、そして恐らくイタリアでの国政選挙を控えた金融市場の安定維持のために、そのことは重要な要因となりそうだ。

こうした政治的試練のなかでも最大と目されているのが、5月に行なわれるフランス大統領選挙の第2回投票だ。そこでは、ユーロ懐疑派の極右政党「国民戦線」のルペン党首と中道系独立候補のマクロン前経済相の対決となる可能性が高い。世論調査ではルペン氏が約20ポイントの差をつけられており、勝利の見込みは薄いとされている。

「世論調査が実際に役に立ったのは久しぶりだ」とジャナス・キャピタルのポートフォリオマネジャー、ライアン・マイヤーバーグ氏は語る。オランダ選挙でポピュリズムを抑えたことで、市場は「フランスの選挙についても、少し一息つくことができる」と付け加えた。

今回の投票日に先駆けて行なわれた世論調査は、選挙情勢と政党間の順位を正確に反映していたが、ルッテ首相率いる自由民主党がどの程度の差をつけるかについては、十分に予測できなかった。

「全体として、かなり良い調査ができた」。オランダ紙フォルクスクラントによって「最も正確な世論調査」と認定された調査会社、イプソスの従業員はそう語った。

オランダの調査機関は、ほぼ独自に使用する匿名のオンライン調査をベースに、各有権者が実際に投票する可能性に応じて回答の比重を変える手法を誇っている。これは人口の約95%がウェブを活発に利用している同国の社会をよりよく反映するものだ。こうした調査により、反主流派の投票を過小評価する可能性が限定されるという。

フランスではこれまで、ルペン党首率いる極右政党・国民戦線に投票する意思を認めることを一部の有権者は躊ちょするだろうと考え、世論調査において、同党の支持率を上乗せ補正することが常であった。しかしここ数年、そうした補正を行わなくなった。有権者はもはや投票先を口にすることを、ためらわなくなっているからだという。

バークレイズとJPモルガンは16日付の顧客宛て書簡において、オランダ下院選挙から得られる結論の1つとして、ポピュリスト政党が世論調査において一貫して過小評価されているとは限らず、世論調査は引き続き重要な手掛りだと述べている。

オランダの選挙結果を受けて欧州市場には安堵感が広がった。株価は一時、過去15カ月で最高の水準に上昇し、ユーロの対ドル相場は、1日としては過去9カ月間で最大の上昇幅を示した。欧州各国の首脳も選挙結果を歓迎している。

<読みにくい終盤の逆転要因>

ただ、たとえフランスの世論調査が断固たる結果を示したとしても、投資家は当面、それを鵜呑みにしようとは思わないかもしれない。

オランダでの世論調査は、最後の数週間でルッテ首相に有利な方向へ振れたが、それ以前はウィルダース氏が躍進するとの予想を示していた。

選挙前の数日間に話題の中心だったトルコとの対立においてルッテ首相が断固たる姿勢を示したことなど、終盤の逆転要因が、今後のフランスやドイツの選挙でも影響を及ぼす可能性がある。

オランダの有権者の多くは、選挙の数日前まで態度を決めかねていたという。「有権者の14%は当日になって投票先を決めた。投票ブースに入ってまで迷っていた人もいたほどだ」とイプソスの調査担当ディレクター、マリアンヌ・バンク氏は指摘する。

オランダの世論調査員モーリス・デホンド氏は、こうした状況を考慮して、直前週の調査にもっと力を入れる必要があると語る。「ギリギリで心を決める有権者がこれほど大きな影響を与えている」

フランス大統領選挙の決選投票まではまだ2カ月近くある。主要3候補全員がすでにスキャンダルに見舞われている選挙戦において、オランダと同様に、有権者の気持ちの変化があったとしても不思議はない。

「オランダ選挙で世論調査の予想がそれなりに当たったことで、ルペン氏勝利の可能性を一貫して低く見積もっているフランスの世論調査に対する信頼感も回復する可能性が高い」と語るのは、コロンビア・スレッドニードル・インベストメンツでポートフォリオマネジャーを務めるエイドリアン・ヒルトン氏だ。

「とはいえ、警報解除を発するのは、おそらく時期尚早だろう」と同氏は付け加えた。

<行き過ぎた失望感>

今回のオランダ選挙によって、「世論調査よりも賭け市場のほうが有権者の感情を明確に示している」という一部の投資家が抱く見解はさらに信頼性を失う可能性がある。こうした理屈は、ブレグジットと米大統領選の前には優勢だった。

ただブレグジットと米大統領選双方のイベントにおいて、おおむねどちらとも解釈できる世論調査の予想に比べ、ブックメーカーの判断はさらに的外れなものだった。

「世論調査に対する信頼感はある程度高まるだろうが、そもそも昨年のブレグジットやトランプ氏当選を受けた(世論調査への)失望感が行き過ぎだったと思う」。ブルーベイ・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、カスパー・ヘンス氏はそう語る。

モルガンスタンレーのアナリストによれば、ブレグジットと米国大統領選において、世論調査は大外れだったと思われているが、実際には2─4%の誤差でしかなかったという。

フランスにおける世論調査の誤差がさらに大きくなると想定したとしても、ルペン氏勝利の可能性は15%程度だとモルガンスタンレーでは見込んでいる。それに対して、一部のブックメーカーではルペン氏勝利の可能性を30%前後と予想している。

(翻訳:エァクレーレン)

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