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特別リポート:売られる花嫁、ロヒンギャの少女を取り巻く現実

2017年02月21日(火)16時04分

 2月15日、迫害や暴力に満ちたミャンマー西部ラカイン州から、マレーシアに逃れて来る大勢のイスラム系少数民族ロヒンギャの少女が、ロヒンギャ男性に花嫁として売る人身売買業者の犠牲になっている。写真は、夫から逃れてマレーシア首都郊外で家族と暮らす少女。9日撮影(2017年 ロイター/Lai Seng Sin)

Rozanna Latiff and Ebrahim Harris

[クアラルンプール 15日 ロイター] - ターコイズ色のヘッドスカーフを巻いたか細い少女は、暴力にまみれたミャンマー西部ラカイン州からマレーシアに逃れる途中で自分の身に起きたことを思い出しながら涙をこらえた。

当時わずか12歳だったこの少女は、10歳以上も年の離れた見ず知らずの男性との結婚を強いられた。

現在まだ13歳であるため彼女の名前は明かせないが、迫害や暴力、アパルトヘイト(人種隔離)のようなラカイン州での状況から逃れて来る大勢のイスラム系少数民族ロヒンギャの少女の1人である。だがそうした少女たちは結局、隣国マレーシアにいるロヒンギャ男性と結婚するために売られてしまうのだと、移民支援団体やロヒンギャの人たちは語る。

この少女によると、マレーシアに向かう途中で家族と離ればなれになり、人身売買業者に捕まった。そしてタイとマレーシア国境付近のジャングル地帯で、他の大勢の少女と共に、汚くて過酷なキャンプに数週間、監禁された。もし結婚に同意すれば、ロヒンギャ男性が自由にしてくれると、人身売買業者は彼女に言ったという。

「私は男の人に売られたと業者が言ったので、どうしたらそんなことができるのかと私は尋ねた。心は重く、怖かった」と、少女はクアラルンプールで行ったインタビューでこう語った。

ロイターは少女の証言の一部を独自に確認することはできなかった。しかし解放されるまでの数週間、少女はキャンプに捕らえられていたと母親が確認した。

少女の苦難は多くのロヒンギャが直面する困難の1つにすぎない。ロヒンギャはバングラデシュからの不法移民としてミャンマー政府からみなされ、権利も制限されている。

2012年以降、暴力や衝突によって多くのロヒンギャが殺害され、マレーシアやタイ、インドネシアやバングラデシュといった近隣諸国に避難しようとする人が後を絶たない。

ロヒンギャが多く住むラカイン州では昨年10月に武装集団が警察を襲撃する事件が発生し、治安機関が掃討作戦を展開。国連人権高等弁務官事務所は今月、掃討作戦で大量虐殺や性的暴行が行われたとの報告書を発表した。人道に対する罪に該当する確率が「極めて高い」ほか、民族浄化の可能性もあるという。

<批判を受けるマレーシア>

人権団体によると、ロヒンギャ女性がミャンマーを逃れて、たいてい家族同士が決めた避難先のロヒンギャ男性と結婚することはよくあるという。こうしたお見合い結婚のなかには、未成年の少女もいる。

しかし、花嫁をロヒンギャ男性に売る人身売買業者の犠牲になる女性や少女が増加している。

東南アジアで活動する移民・難民の保護団体「フォーティファイ・ライツ」のマシュー・スミス代表は、ラカイン州での暴力悪化を受け、子どもの花嫁が「かなり」増加したのを同団体は目の当たりにしたと語った。

結婚のために売られた少女に関する公式統計はない。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は2015年、報告書のなかで、マレーシアに子どもの花嫁が120人いることを確認したが、そのうち何人が人身売買の犠牲者なのかは不明だとしている。

マレーシアは国連の難民条約に加盟しておらず、亡命を求めるロヒンギャの搾取に加担していると、人権団体は主張する。ロヒンギャを不法移民として扱い、彼らが雇用や医療や教育に正規にアクセスする道を断っているからだ。彼らは不法にレストランや建設現場で働き、貧しい生活を強いられている。

マレーシアは今月、ロヒンギャ300人を雇用する対策を打ち出した。人権団体はこうした動きを歓迎している。

ロイターは本記事についてマレーシア政府にコメントを求めたが、返事はなかった。

<許される子どもの結婚>

イスラム教徒が多数を占めるマレーシアは子どもの結婚に寛大である。

イスラム法(シャリア)の下では、16歳未満のイスラム教徒の少女でも、シャリア裁判所の許可があれば結婚できる。ただし、マレーシアにおけるロヒンギャの結婚において、裁判所は関与していない。ロヒンギャの指導者が取り仕切り、結婚証明書は発行されるものの、それがマレーシアの法律の下で合法な文書であるかは示されていない。

前述の結婚した少女は、マレーシアの東海岸にあるクアンタンに連れて行かれた。夫になった男性は、支配的で虐待することがすぐに分かったという。彼女の携帯電話を取り上げ、自分の家族にも彼女を会わせなかった。家のなかで何日も独りで放置されたこともあった。

結婚してから8カ月目に入ったころ、少女は両親と下の4人のきょうだいと連絡が取れ、父親によって救出された。父親は彼女を捜すため、クアンタンまでやって来ていた。

ロイターは少女の夫に電話でコメントを求めたが、応答はなかった。

少女は現在、クアラルンプール郊外の小さな村で、家族と1部屋だけの小屋に暮らしている。

以前より安心しているというが、離婚に応じなかった夫の元に戻らなければいけなくなるかもしれないことを恐れていると少女は語る。

自身も難民でロヒンギャ女性の支援ネットワークを立ち上げたシャリファ・シャキラ氏は、「(ロヒンギャは)法的地位がないため、弁護士や警察に助けを求めることは簡単ではない。子どもの花嫁がいると通報を受けても、警察は動かない」と語った。

<尊厳ある生活>

国連統計によると、約5万6000人のロヒンギャがマレーシアで生活している。ただしロヒンギャの多くが不法滞在のため、その数はそれよりはるかに多いと、移民支援団体は指摘する。彼らは主に首都クアラルンプール周辺の貧困地区にコミュニティーを築いている。

ロイターが取材したロヒンギャ男性たちによると、このように社会から取り残された小さなコミュニティーに暮らす若い男性にとって、結婚相手を見つけて家族を築くことは、社会的地位を上げて普通の生活をする1つの方法だという。

マレーシアのロヒンギャ社会に結婚相手としてふさわしい女性が不足していることが花嫁の需要を生む一方、一部の家族は結婚を口減らしの手段として考えていると、クアラルンプールに暮らす3人の子の父親であるロヒンギャ男性(32)は話す。この男性の姉妹も幼くして嫁いだという。

人身売買に関与していたアリとだけ名乗るロヒンギャ男性はロイターに対し、ロヒンギャの花嫁需要は伸びていると語る。人身売買組織は、少女1人を家族に解放、あるいは男性に売った場合、最大7000リンギット(約18万円)を得ているという。

アリは、タイとマレーシア国境付近のジャングル地帯にある人身売買キャンプで警備を担当していた。独りで移動していたり、家族が解放するための金を払えなかったりした女性や少女は売られていったという。

「15歳、16歳くらいの少女たちがいた。彼女たちに選択の余地はない」とアリは言う。

18歳のヤスミン・ゾキール・アフマドさんは、クアラルンプールで草刈りの仕事をするロヒンギャ男性が2年前、彼女と結婚するために人身売買業者に3500リンギット払ったときのことを話してくれた。

マレーシアに至るまでの9カ月に及ぶつらい旅を終えた後だった。道中では海も渡り、食べ物も水も与えられないことが多かったタイ奥地のキャンプで長い期間を過ごしたという。

「選択肢などなかった。助けと保護が必要で、彼と結婚するしかなかった。尊厳ある生活を送りたい」とヤスミンさんは語る。

彼女の夫はコメントするのを拒否した。

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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