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アングル:英とEUの新関係構築、既存モデルなく交渉長期化へ

2016年06月30日(木)08時57分

 6月28日、国民投票で欧州連合(EU)離脱が多数派を占めた英国は、EU市場へのアクセス権を最大限維持しながら、主権は回復して移民流入を制限したいと願っている。写真はロンドンの国会議事堂付近でEUとの連帯を訴える女性。28日撮影(2016年 ロイターS/Dylan Martinez)

[ブリュッセル 28日 ロイター] - 国民投票で欧州連合(EU)離脱が多数派を占めた英国は、EU市場へのアクセス権を最大限維持しながら、主権は回復して移民流入を制限したいと願っている。しかしそれにふさわしい既存の協定モデルは今のところ存在しないので、英国とEUの新たな関係を築くための交渉が長引き、相当な曲折を経るのは避けられないだろう。

EUがノルウェーやアイスランド、リヒテンシュタインと合意した欧州経済地域(EEA)という枠組みならば、農業と漁業を除いた単一市場へのアクセスは保証される。

英金融街シティの自治組織、シティ・オブ・ロンドンは政府当局にノルウェーと同じような協定を結んで英金融サービスセクターがこれまでと同じようにEU域内で事業展開できるようにしてほしいと要望している。

しかしEEAには大きなネックがある。加盟国はEUが定めた「人の移動の自由」と拠出金のルールを受け入れる必要があるが、国民投票で離脱に賛成した英国民の多くは、EUが英国の主権を損ない、東欧から際限なく移民が入ってくるのを許していると不満を持っているからだ。

シティ・オブ・ロンドンの政策責任者、マーク・ボリート氏は、金融業界にとって解決策の1つはノルウェー型の協定締結だとしながらも、EU離脱支持派がそれを受け入れられるかというのはまた別の問題になると指摘した。

ノルウェーのソルベルグ首相も、同国とEUが結んだ関係が英国のようなずっと規模が大きく、固有の歴史がある国にも有効かどうかは疑問だとの見方を示した。

ソルベルグ氏は「われわれは自分たちが参加できないEU内の会議で決まったルールや規制を受け入れる。ノルウェーは小国で歴史も違う。市場アクセスや雇用をもたらし経済成長を確保するという点で、われわれはそうした事態を許容する」と述べた。

EUはスイスとの間では数多くの個別的な協定を取り交わしているが、金融サービスの分野では合意に達していない。このためスイスの銀行はEU域内で直接的に商品を販売することはできない。一方、スイスは人の移動の自由を承認したが、2014年の国民投票で移民制限への賛成が過半数に達し、EUともめ続けている。

<長丁場>

英国とEUが何も協定を結ばないという選択肢はありえない。英国の経済規模は世界トップ6に入り、通商戦争は双方が痛手を被る。関税障壁で貿易が制限されれば、ドイツの自動車販売やベルギーの港湾の収益に響いてくるだろう。

英シンクタンク、オープン・ヨーロッパのピーター・クレッペ氏は「事態を合理的に考えれば、EUがより柔軟に対応する展開は十分にあり得る。交渉の途中段階ではかなり紛糾があっても、最後は理性が勝利するだろう」と述べた。

英国では有力な次期首相候補とされるボリス・ジョンソン前ロンドン市長をはじめとするEU離脱支持派の多くは、カナダとEUが2014年に合意(未発効)した包括的経済・貿易協定(CETA)を英国が進むべき道として提示している。

この方式なら英国はEUからの移民受け入れや拠出金支払いの義務はない。ただし英経済の80%近くを占める肝心のサービス分野では特に市場アクセスは部分的にしか確保できない。

銀行の例をみるとカナダの金融機関はEU域内に拠点を構える必要があり、EUの規制にも従わなければならない。英国がカナダ型を採用すれば、国内の金融サービス企業はEU域内での営業活動がより困難になる。

2018年にEUが導入する新たな市場規制では、域外の金融機関がEU内で投資サービスを販売できる可能性はあるが、すべての金融サービスに適用されるわけではない。欧州委員会が当該金融機関の本国の規制をどう判断するかにも左右される。

シンクタンクの欧州国際政治経済研究所(ECIPE)のディレクター、Hosuk Lee-Makiyama氏は、現在EUと米国が交渉を進めている包括的貿易投資協定(TTIP)が、将来のEUと英国の関係の手本になる可能性があると考えている。

Lee-Makiyama氏は「カナダとEUの貿易はモノ中心なのでCETAは基本的に関税協定。英国とEUはもっと統合化されているので、サービスと投資をカバーする必要が出てくる」と話した。

CETAはEUがこれまで締結した貿易協定としては最も野心的だが、TTIPは関税引き下げだけでなく、規制面での協力にまで踏み込んでいる。それでもLee-Makiyama氏によると、金融や移民は協定の範囲外のままだ。

TTIPの交渉はもう3年続いている。CETAは交渉開始から7年近く経過したがなお発効していない。

EU離脱交渉は通告から2年と定められ、すべての加盟国が同意すれば交渉は延長される。

オープン・ヨーロッパのクレッペ氏は「交渉延長を拒否する国は出てきそうにない。交渉が7年から10年かかることもあり得る」と予想した。

(Philip Blenkinsop記者)

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