ニュース速報

ワールド

溺れた赤ちゃん写真、地中海における難民の悲劇浮き彫りに

2016年05月31日(火)14時11分

 5月30日、先週だけで何百人もの難民が地中海で溺れたとみられるなか、救助隊員の腕に抱かれた溺れた赤ちゃんの写真が、人道支援組織によって公開された。写真はリビア沖で転覆するボート。伊海軍が25日に公開した。ドイツの人道支援組織によって27日に引き上げられた、溺れた赤ちゃんが乗っていたボートとは異なる(2016年 ロイター/Italian Marina Militare)

[ローマ 30日 ロイター] - 先週だけで何百人もの難民が地中海で溺れたとみられるなか、救助隊員の腕に抱かれた溺れた赤ちゃんの写真が30日、人道支援組織によって公開された。この組織は欧州当局に移民の安全な移動経路を確保するよう訴えている。

1歳未満とみられるこの赤ちゃんは27日、木製ボートが転覆した後、海から引き上げられたという。その2日後には、45の遺体がイタリア海軍の艦船によって、同国南部のレッジョ・ディ・カラブリア港に搬送された。この艦船は同じ転覆事故からの生存者135人も救助している。

寝ている赤ちゃんをあやすかのように抱くドイツの救助隊員を写した画像は、リビアとイタリア間で救助ボートを運航するドイツの人道支援組織シー・ウォッチが公開した。同乗していたメディア製作会社が撮影したという。

この救助隊員は、海の中で「腕をいっぱいに広げた、人形のような」赤ちゃんを発見したとメールで語っている。彼はマーティンと名乗り、苗字は明らかにしなかった。

「私は赤ちゃんの前腕をつかみ、まだ生きているかのように、その軽い身体を守ろうと、すぐに腕の中に抱き寄せた。小さな指と腕を宙に伸ばしていた。その明るく人懐っこいが、動かない瞳に、太陽の光が差し込んでいた」

3児の父親であり、音楽療法士を職業とするこの救助隊員は、「自分を慰め、この理解しがたい悲痛な瞬間を表現するために歌い始めた。6時間前にはこの子どもは生きていた」と述べた。

昨年、トルコの海岸に打ち上げられた3歳のシリア難民アイランちゃんの写真と同様に、この写真も2014年初頭から地中海で死亡した8000人以上の人々について、その苦しみを生々しく伝えるものとなった。

シー・ウォッチによると、イタリア海軍に直ちに引き渡されたこの赤ちゃんについての詳細は不明だという。救助隊員も一部服を着たままだった乳児が男か女かも確認することができなかった。また、赤ちゃんの父親や母親が生存者の中にいるかどうかも分かっていない。

ロイターによって確認された乗組員たちの証言によると、シー・ウォッチは、別の子供1人を含む、約25の遺体を回収。シー・ウォッチのチームは全員一致で写真を公開することを決めた。

「こうした悲惨な出来事によって、欧州連合(EU)の政治家がこれ以上の海での死亡を避けようとする呼び掛けは、単なるリップサービス以外の何物でもないことが、現場の支援団体には明白だ」。シー・ウォッチは写真とともに公開した英文の声明文でこう述べた。

「このような写真を見たくないのであれば、彼らを生み出すことを止めなければならない」。シー・ウォッチはこう述べ、欧州は難民に対して安全で法的に保証された移動経路を確保することで、密入国によるさらなる悲劇を無くすよう求めた。

リビアからイタリアへ渡航した難民の数は、過去1週間で今年最多を記録しており、少なくとも700人が海で死亡した、と国連の難民支援組織は29日明らかにしている。

赤ちゃんを乗せたボートは26日遅くリビアのサブラタ近くの港を出発し、海路を進んだことが、国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」が実施した生存者からの聴き取り調査で明らかになった。生存者によると、ボートが転覆したとき、何百人が乗船していたという。

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替円安、行き過ぎた動きには「ならすこと必要」=鈴

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中