日銀総裁、12月会合で利上げの是非「適切に判断」 賃上げで情報収集
12月1日 日銀の植田和男総裁(写真)は1日、18―19日の金融政策決定会合で利上げの是非を「適切に判断したい」と述べた。写真は10月、日銀本店で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
Takahiko Wada
[名古屋市 1日 ロイター] - 日銀の植田和男総裁は1日、18―19日の金融政策決定会合で利上げの是非を「適切に判断したい」と述べた。来年の春季労使交渉(春闘)に向けた「初動のモメンタム」が重要だと改めて指摘し、日銀の本支店を通じて、企業の賃上げ姿勢について精力的に情報収集していると説明した。
植田総裁はこの日午前、名古屋市で経済界代表者らを前にあいさつした。発言内容に市場は反応し、中長期金利は軒並み17年ぶり高水準を更新した。日銀が前回追加利上げをした1月会合の際は、直前に氷見野良三副総裁が「利上げを行うかどうか政策委員の間で議論し、判断したい」と類似の発言をしていた。
植田総裁は、最近の米国経済や関税政策を巡る不確実性の低下を踏まえれば「経済・物価の中心的な見通しが実現していく確度は、少しずつ高まってきている」と語った。12月の決定会合では、内外経済・物価情勢や金融資本市場の動向を、様々なデータや情報をもとに点検・議論していくとした。
記者会見では、物価目標達成をスムーズに行うためにどういう政策金利のパスが適切かという観点から政策調整の時期を判断していく、とも述べた。
<賃上げ確認へ、最近の動向を列挙>
あいさつの中で植田総裁は、賃上げ動向について、人手不足や最低賃金の引き上げに加え、最近の動向にも言及した。連合が来年の春闘の目標賃上げ率を前年と同じ「5%以上」と掲げ、経団連が賃上げの「さらなる定着」との方針を打ち出したことに加え、多くが「今年とほぼ同じかそれ以上の賃上げ率を予定している」とした経済同友会の調査も引用。さらに、先週の政労使会議では、政府が中小企業を含めた賃上げの環境整備に取り組むことを表明した、と述べた。
その上で、2013年の政府・日銀の共同声明以降の両者の取り組みを振り返った。積極的なマクロ経済政策で「賃金と物価がともに緩やかに上昇するメカニズムが復活した」と評価。
日銀は目下、2%物価目標が持続的・安定的に実現する姿に着地するよう徐々に緩和度合いを調整しているが「遅すぎることもなく、早すぎることもなく、緩和の度合いを適切に調整していくことは、金融資本市場の安定を確保しつつ、物価安定目標をスムーズに実現するとともに、わが国経済を息の長い成長軌道に乗せるために必要だ」と述べ、このことがひいては「これまでの政府と日本銀行の取り組みを最終的に成功させることにつながる」と語った。
会見では、11月に相次いだ高市早苗首相や片山さつき財務相、城内実経済財政相との会談で「さまざまな論点について、率直に良い話ができた」と話した。
植田総裁は実質金利が極めて低いことについて「政策金利を引き上げると言っても、緩和的な金融環境の中での調整だ」と踏み込んだ。例えて言えば、景気にブレーキをかけるものではなく、安定した経済・物価の実現に向けて、アクセルをうまく緩めていくプロセスだと説明した。
植田総裁はあいさつの後、地元経済界の代表者らとやり取りし、米国の関税政策の影響について、製造業の収益にマイナスの影響を及ぼしているとする一方、設備投資や雇用・賃金など日本経済全体に大きく波及している様子は現時点で確認できないとの認識を示した。
為替相場については「経済、金融のファンダメンタルズに沿って安定的に推移することが重要だ」と改めて述べた。その上で、円安による輸入物価上昇は物価の押し上げ要因になるが、「企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると為替の変動が価格に影響を及ぼしやすくなる面には留意が必要」と指摘。こうした物価上昇が予想物価上昇率の変化を通じて「基調物価に影響する可能性もある」と語った。





