コラム:半導体大手、トランプ関税危機ひとまず回避 真の試練はこれから

世界の主要な半導体メーカーはひとまず危機を回避したようだ。写真はエヌビディアの新型半導体。3月21日、同社提供(2025年 ロイター)
Robyn Mak
[香港 7日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 世界の主要な半導体メーカーはひとまず危機を回避したようだ。トランプ米大統領は6日、米国に輸入される半導体に約100%の関税を課すと表明した。しかし、アップルなど米国内での投資を約束した企業には適用されないと発言したことから、台湾積体電路製造(TSMC)と韓国サムスン電子の株価は7日に一時5%上昇した。
TSMCとサムスン電子は米国における事業拡大計画により関税の適用除外が確実になるだろう。だが、米政府は製造業に対する要求をさらに強める可能性が高い。つまり半導体メーカーにとって真の苦難はこれから始まるかもしれないのだ。
半導体への関税計画はまだ重要な詳細が不明だ。例えば100%の関税が半導体チップそのものだけに適用されるのか、半導体チップを搭載したあらゆる電子機器に適用されるのかといった点だ。
この違いは重要だ。米商務省国際貿易局(ITA)によると、昨年の半導体チップの輸入額は400億ドルに達した。これに対し、アップルのiPhoneやエヌビディアの人工知能(AI)サーバーなど、半導体チップを搭載した電子機器の輸入額は5500億ドルを超えた。
さらに製造工程の中で付加価値が加わるどの段階で関税が適用されるかや、部品の原産地をどのように特定するのかといった厄介な問題も解決する必要がある。一部のスマートフォンは台湾で製造されたチップが搭載され、マレーシアでパッケージングされた後、中国で組み立てられるといった複雑なケースもある。
差し迫った打撃が最も深刻なのは、米国内に製造拠点を持たず、拠点を設ける資金力もないフィリピンをはじめ東南アジアなどの中小規模の半導体供給業者だろう。対照的にアリゾナ州に稼働中の工場を有するTSMCは3月、米国への投資額を1000億ドル増額し、合計1650億ドルにすると発表した。これはサムスン電子が昨年表明した約450億ドルを大きく上回る。
しかし、トランプ政権は特に中国に対する優位性を保つため、米国に高度な製造能力を導入することに本気で取り組んでいる。従ってさらに多くの工場を約束するだけでは不十分である可能性が高い。
アップルの米国内への投資や取り組みは今のところ半導体やガラスといったiPhoneの部品に焦点が当てられており、トランプ氏の「米国製iPhone」の要求を満たすには至っていない。
台湾当局はこれまでに、TSMCが2ナノ(ナノは10億分の1)メートルと1.6ナノの最先端半導体を米国で来年生産することはないと明言している。トランプ政権はこれらの半導体の米国内での生産を優遇措置の前提条件とするか、少なくとも研究開発拠点の米国への移転を迫る可能性がある。半導体メーカーはまだ完全に安心できる状況ではない。
●背景となるニュース *「半導体に100%の関税」、トランプ氏表明 国内生産なら優遇 *アップル、米に1000億ドル追加投資 iPhone関税回避狙い (筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)