マクロスコープ:発火点は債券市場、参院選で日本版「トラス危機」あるか

7月15日、参院選の投開票日が迫る中で与党の苦戦が伝わっており、金融市場では、選挙後の政権の枠組みと財政政策への影響が注目されている。写真は円紙幣。2024年7月、都内で代表撮影(2025年 ロイター)
(脱字を修正して再送します)
Noriyuki Hirata
[東京 15日 ロイター] - 参院選の投開票日が迫る中で与党の苦戦が伝わっており、金融市場では、選挙後の政権の枠組みと財政政策への影響が注目されている。仮に、財政拡張懸念を材料に海外勢が日本売りのトリガーを引く場合、発火点は債券市場との見方が多い。
市場で想起されるのは、2022年秋に英国で生じた「トラス・ショック」だ。当時のトラス政権は財源を示さずに大規模減税策を打ち出し英国売りを招いた。経常黒字や対外純資産を抱える日本は事情が異なるとの見方があるが、この失敗を教訓にできなければ、昨年とは違った形で波乱の夏を迎えることになりかねない。
<超長期金利、海外勢の標的になりやすく>
日本の債券市場では、海外勢の存在が高まっている超長期金利が7月に入って上昇基調を強めている。国内メディアによる情勢調査で与党の苦戦が伝わる中、財政悪化を懸念した売りとみられている。加えて、6月まで米国からの分散投資の一環で超長期債を買っていた海外勢が「参院選を控えてポジションをニュートラルにし始めている」(SBI証券の道家映二チーフ債券ストラテジスト)との声が聞かれる。
円債市場では、海外勢は財政悪化を嫌がる傾向があるとみられており、懸念が高まればポジションを落とす動きが進む可能性があると警戒されている。海外勢は今年1月以降、5カ月連続で超長期債を買い越し、その額は7兆円超に膨らんでいる。
参院選で、野党は軒並み減税を主張、与党も現金給付を訴えており、ともにバラマキとの批判が絶えない。
こうした中、与党が非改選議席を含めて過半数割れとなれば野党の声が強まるのは必至だ。みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「トラス・ショックほどの急性的な動きは考えにくいが、全く対岸の火事とも言い切れない」と指摘する。
三井住友銀行の宇野大介チーフストラテジストは、国債は全年限で金利上昇圧力がかかると予想。10年債利回りは約17年ぶり高水準の1.595%、30年債利回りと40年債利回りは過去最高水準の3.195%、3.675%を「それぞれ超えていく可能性がある」との見方を示す。
一方、与党が非改選含めて過半数を維持した場合でも、超長期ゾーンについては買い手不在という需給構造に変化がみられない中、イールドカーブの形状はスティープ化した状況が続くとみる。宇野氏は「自民党が大敗しなかったとしても、物価高対策で一定の財政出動の可能性は残る。このため、金利上昇幅を多少抑制する程度ではないか」という。
<最悪シナリオ「日本売り」、金利上昇スピード鍵>
通常の金利上昇は、株価の相対的な魅力を低下させる。為替市場では円高の反応となり、こちらも株の売り材料となる。
一方、財政懸念に基づく金利上昇の場合、「悪い金利上昇」と受け止められるリスクがあり「円の信認が低下して円売りが促されかねない」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジスト)という。
超長期金利が7月入り後、財政懸念を織り込みながら上昇する中、ドル/円は円安基調にあり「悪い金利上昇、悪い円安の連想が働いているようにみえる」と植野氏はいう。円の買い持ちは依然として歴史的な高水準にあり、これまでのところ短期的な巻き戻しの口実になっている可能性があるというが、本格的に悪い円安となるかは、選挙結果によって消費減税やガソリン減税をせざるを得ない状況になるかどうか次第だと指摘する。
みずほ銀の唐鎌氏は「政治の枠組み次第でドル/円は150円台に定着する動きになってもおかしくない」と話している。
株価にも影響は波及し得る。通常の円安なら株価にはポジティブだが、金利が上昇する中での急速な円安の場合「(日本国債の)格下げが意識されているかもしれず、日本が海外からの投資対象でなくなることへの警戒感から、ひとまず株安が促される可能性がある」(いちよしアセットマネジメントの秋野充成社長)との見方がある。
債券安(金利は上昇)、円安、株安のトリプル安の様相となると、投資家のリスクオフ姿勢が強まり、さらなる売りを招く恐れもある。企業の自社株買いや買い遅れた投資家の押し目買いによる下支えが意識される一方、「格下げが警戒されるようなってくれば短期的に(日経平均は)3万8000円割れも視野に入ってくる」と、いちよしAMの秋野氏は見ている。
もっとも、しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンド・マネージャーは「景気刺激策は株価に悪い話ではない。いったんリスクオフの反応が出るかもしれないが長続きしないのではないか」と話す。与党が議席を減らす場合「閉塞感を打開する方向に動くとの期待感も生じるのではないか」と、ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストはみている。
4月の株価急落以降、海外勢による日本株の買い越しが続いてきたが「(これまでの)海外勢の買いは政治期待でなく分散投資の一環であり、選挙が失望される結果になったとしても大きな巻き戻しはないだろう」(井出氏)との見方もある。
<関税交渉への影響にも目配り必要>
選挙を経た後の政治動向にも目配りは必要になりそうだ。連立の枠組み次第では「日米交渉が迅速に進められるか不透明感が強まりかねない」と東京海上アセットマネジメントの若山哲志株式運用部シニアファンドマネージャーはみている。
米国による相互関税の上乗せ部分は停止期限が8月1日に迫る中、トランプ米大統領は強硬的な主張を強めている。詰めの協議に向けて交渉担当者が交代するようなら、日本は足元をみられかねないとの警戒感もある。
このほか、日本人ファーストを唱える参政党がどれだけ票を伸ばすかにも関心が高い。保守色の強い政党に「日本国民のフラストレーションが流れている様子がうかがわれると、海外勢は政治リスクを感じ取るかもしれない」とマネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジストは指摘する。
非自公で連立が組まれることも「半導体産業の支援策や資産運用立国の方針などの路線が継承されるかは不透明」(東京海上AMの若山氏)として、株価のリスク要因になり得るとの見方がある。
(平田紀之 取材協力:坂口茉莉子 編集:橋本浩)
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