アングル:超長期債の発行減額、短中期債が受け皿か 市場機能改善は不透明

需給不安がくすぶり続ける超長期債について発行減額の観測が強まる中、市場規模の大きい短中期債が受け皿になり得るとの見方が市場で浮上している。写真は、紙幣を印刷する印刷局東京工場。2003年7月、東京で撮影 (2025年 ロイター/Eriko Sugita)
Mariko Sakaguchi
[東京 3日 ロイター] - 需給不安がくすぶり続ける超長期債について発行減額の観測が強まる中、市場規模の大きい短中期債が受け皿になり得るとの見方が市場で浮上している。5年債、10年債を増額する可能性については見方が分かれているが、いずれにしても減額規模が市場の見通し通りであれば、イールドカーブ全体を押し下げる要因にはならないとの指摘がある。
<短中期債であれば「問題なく消化」>
30年債、40年債などの超長期債は5月以降、財政不安を背景とする米金利上昇に引きずられる形で利回りが急ピッチで上昇していたが、足元ではやや落ち着きを見せている。財務省が25年度の国債発行計画の年限構成を再検討するとの報道で、超長期債の発行減額の観測が浮上したことが要因の一つだ。
市場では、超長期債の発行が減額される場合、20年債、30年債、40年債がいずれも毎入札時1000億円の計3000億円減額されると予想、開始時期は7月との見立てが軸になりつつある。ただ、国債全体の市中向けカレンダー発行額(172.3兆円)の変更は想定されないとみており、減額分をどの年限にどの程度振り向けるのか、思惑が交錯している。
市場のコンセンサスはまだ固まっていないが、国庫短期証券(TB)と2年債は増額の受け入れ余地があるとの見方が浮上している。
ニッセイ基礎研究所の金融調査室長、福本勇樹氏は「足元では利回り水準の投資妙味よりも、米関税政策を含め不確実性が高く、金利リスクを落とすという動きがより勝っている」と指摘、より短い年限の方が市場では吸収できるとの見方を示す。
TBや2年債は国内の銀行勢による担保としての需要や、金利変動リスクを減らすために保有資産の平均残存期間を短くする「デュレーション短期化」のニーズ、外貨準備の一環として国債を買う海外勢などの需要が見込まれる。
2年債は1000億円程度、「TBは1000─2000億円程度の増額であれば、発行額のブレに過ぎないと受け止められ、大きな影響は生じない」(国内金融機関)との見方がある。例えば、6月の3か月物国庫短期証券は毎入札の発行予定額が4.4兆円程度で、5月は同4.5兆円程度だった。月ごとの1000億円程度のブレは珍しくない。
<金利上昇リスクを抱える年限は手控えも>
5年債と10年債の増額については見方がまちまちだ。いずれも「1000億円程度の増額であれば消化できる」(国内銀のストラテジスト)との見方がある。5年債は日銀の国債買い入れが手厚く、地銀や信金、海外勢などによる継続的な買いも入りやすい。10年債は金利上昇に伴い、全員参加型といわれるほど投資家層が広がった。
ただ、ある国内銀行の運用担当者は「直近の入札では10年以下のゾーンを含めてもうまくいっていない。その上、同ゾーンは今後日銀による国債買い入れの減少の影響がより効いてくる」とし、増額余地がどのくらいあるか、疑問視する。
また、先行きに金利上昇圧力がかかるリスクがくすぶっているため、買い手控えが起きかねないとの警戒感がある。5年債も10年債も今後、日銀の国債買い入れ減額幅が相対的に大きくなる可能性が意識される。5年債については日銀の金融政策の動向に振れやすく、10年債については需給不安で超長期債金利が再び上昇すれば、それに引っ張られて金利が引き上げられやすいリスクがある。
<構造的な問題の払しょくにはつながらず>
もっとも、仮に超長期債の減額に動いたとしても、市場が観測している規模にとどまるなら「構造的な問題の払しょくにはつながらない」(国内証券のストラテジスト)との見方は根強い。
三井住友銀行のチーフストラテジスト、宇野大介氏は「買い手がいない状況では、仮に超長期債の発行額を減らしても、金利上昇を抑制する程度。全体のイールドカーブを下げる要因にはならない」と指摘する。
超長期ゾーンの買い主体だった生保勢もソルベンシー規制対応が一巡、低い利回りから高い利回りへの入れ替え需要がメインで、「(発行減額は)相場のサポートにはなるものの、金利低下要因にはならない」(国内証券債券セールス担当)という。
足元では流動性の薄さからビッドとオファーの価格が開き過ぎており、「オフ・ザ・ラン銘柄(既発債)の20―30年ゾーンや40年債はほとんど買えない状況だ」(アセットマネジメントのファンド運用担当者)との声も聞かれるなど、超長期債の減額で、市場価格機能がどの程度改善するのか不透明感も残る。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア債券ストラテジスト、鶴田啓介氏は「(財政に対する)政府のスタンスや7月の参議院選挙の結果などをみて、(市場が)落ち着かない限り、完全な需給好転は期待できない」とし、「財務省が出来ることも限られるのかもしれない」と指摘する。
(坂口茉莉子 編集:石田仁志)