ニュース速報
ビジネス

アングル:0.25%利下げほぼ確実なECB理事会、市場の注目ポイント

2024年09月10日(火)18時12分

欧州中央銀行(ECB)は12日の理事会で利下げを決めるのはほぼ確実だが、その先の動き方はまだはっきりしていない。写真はフランクフルトのECB前で7月撮影(2024年 ロイター/Jana Rodenbusch)

Yoruk Bahceli Stefano Rebaudo

[6日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)は12日の理事会で利下げを決めるのはほぼ確実だが、その先の動き方はまだはっきりしていない。

背景には、成長見通しの弱まりがインフレ懸念を払しょくするほどなのかどうかを巡る、ハト派とタカ派の意見対立がある。

ヘッジファンド、ポイント72の欧州経済調査責任者を務めるソエレン・ラッデ氏は「今回の利下げにほぼ異論はないので、(ECBが発信する)メッセージ(の内容)がより重要だ」と述べた。

ECBの今後の政策運営に関する市場の注目ポイントは以下の5つだ。

(1)12日の動き

25ベーシスポイント(bp)の利下げはまず間違いないため、投資家の関心はその次がどうなるかについての手がかりに集まっている。

前回理事会以降、市場では9月の利下げが完全に織り込まれ、12月に追加で決まる確率が高く、10月にも可能性があると想定されてきた。

7月半ば段階では、9月の後は年内1回の利下げが100%見込まれていなかっただけに、ラガルド総裁が10月に利下げする可能性を何か示唆するかどうか投資家は耳を傾けることになる。

ECBの政策担当者からは、今のところ連続利下げを支持する発言は出てきていない。

アバディーンのエコノミスト、フェリックス・フェザー氏は「ラガルド氏はECB(の政策)がデータ次第の側面が強いとの姿勢を放棄しないだろう」と述べた。  

(2)インフレ懸念

ECBのインフレ懸念は、現在の政策サイクルにおいて最も薄れている。

ユーロ圏の8月物価上昇率は2.2%と、2021年以降でECBが目標とする2%に最も近づいたし、賃金の伸びは減速しつつある。

景気回復は低調で、ドイツの第2・四半期成長率はマイナスを記録。ハト派は、利下げペースが遅れれば物価上昇率は目標を下回る事態さえ起きかねないと警戒している。

ただエコノミストの分析では、物価押し下げの原動力はエネルギーとモノの価格で、それに伴うディスインフレの勢いはほとんど止まった公算が大きい。

ECBも年末の物価上昇率は2.5%に高まると見込む。

コア物価上昇率はなお3%近くで推移し、サービス価格上昇率は4%を上回ったまま今年になって鈍化しておらず、タカ派は物価抑制が確実になってから追加利下げしたい考えだ。

ポイント72のラッデ氏は「インフレはかなり粘着的で労働市場が底堅く、これに比べると成長率は不相応なほど弱いが(ユーロ圏全体で)マイナスとなっているわけではない」と説明し、ECBが緩やかに四半期ごとのペースで利下げしても失うべきものはほとんどないと付け加えた。  

(3)最新の経済物価見通し

ユーロ圏の第2・四半期成長率はECBの想定に届かず、基調的なインフレは根強い。このため最新の今年の成長率予想は下方修正され、コア物価上昇率予想は引き上げられる可能性がある、というのがエコノミストの見方だ。

来年終盤に物価上昇率が目標の2%に収まるというECBの長期見通しは据え置かれるとみられる。  

(4)ユーロ高の影響

ユーロ/ドルは8月終盤に1年ぶりの高値を付け、ユーロの実効レートは過去最高値を更新したが、経済物価への影響はまだわずかに過ぎない。

通貨高は理論的にはインフレを抑える上で有益だが、ECBの調査からは、ユーロ高が重大な影響をもたらすにはもっと急激で長期的に続く必要があることが分かる。  

(5)政策金利運営枠組みの変更

ECBは3月、政策金利運営の枠組みを変更すると発表した。

資金需要が高まった場合に銀行を支援するのが狙いで、政策金利体系の下限を形成する中銀預金金利と、中心になる主要リファイナンス金利のスプレッドを50ベーシスポイント(bp)から15bpに縮小する方針を示しており、今回理事会で初めて適用される。つまり中銀預金金利を25bp引き下げると、主要リファイナンス金利の引き下げ幅は60bpとなる。

ただ当面、この変更の影響は大きくない。直近のECBによる資金供給オペで銀行が借り入れた金額が20億ユーロ弱なのに対して、余剰流動性が3兆ユーロ前後もあるからで、政策金利のスプレッド縮小が実質的な効果を発揮するにはあと何年もかかるだろう。  

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、アルファベット株43億ドル取得 ア

ワールド

焦点:社会の「自由化」進むイラン、水面下で反体制派

ワールド

アングル:ルーブルの盗品を追え、「ダイヤモンドの街

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円で横ばい 米指標再開とFR
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 8
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 9
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 10
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中