ニュース速報

ビジネス

アングル:米ファースト・リパブリック、危機の種まいた富裕層戦略

2023年03月28日(火)12時45分

3月27日、米中堅銀行ファースト・リパブリック・バンクは、同行の急成長を支えた富裕層客が預金を引き出し始めたことで経営が揺らぎ、米地銀危機の震源地となった。写真はニューヨークの同銀店舗。13日撮影(2023年 ロイター/Mike Segar)

[27日 ロイター] - 米中堅銀行ファースト・リパブリック・バンクは、同行の急成長を支えた富裕層客が預金を引き出し始めたことで経営が揺らぎ、米地銀危機の震源地となった。

シリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行の経営破綻を受け、JPモルガン・チェースを筆頭とする米大手行はファースト・リパブリックに計300億ドルの預金を預けて同行の資金繰りを支えるとともに、同行のための資本調達を探ってきた。

そうした努力も虚しくファースト・リパブリックの株価は月初から90%も暴落。専門家らは、同行の事業構造を考えると再建の門戸は狭いと指摘している。

ファースト・リパブリックは長年、住宅ローンや融資に優遇金利を提示して富裕層の客を呼び込んできた。米国の預金保険制度では1つの貯蓄口座につき25万ドルまでしか保護されないため、富裕層を客に持たない他の地銀に比べて同行は危うい状況にある。

モルガン・スタンレーのアナリストチームが20日に公表した推計では、ファースト・リパブリックの預金は約半分が流出している。預金保険で保護されない預金は、同行の資産の68%を占めていた。

金利の上昇に伴ってファースト・リパブリックの融資および投資ポートフォリオの価値も下がり、資本調達の妨げとなっている。アナリストや投資家は、同行の含み損を94億―135億ドル程度と見積もっている。

オートノマス・リサーチの銀行アナリスト、デービッド・スミス氏は「(含み損の分と)同程度の成長は実現できそうもない」と語った。

ファースト・リパブリックの広報担当者は、客や地域社会の支援を受けて、同行の銀行部門と富裕層向け資産運用部門は口座開設や融資などの事業を継続していると説明した。

同行は1月に開いた投資家向け説明会で、株主リターンが複利で年率19.5%と、他の地銀の2倍に達すると胸を張っていた。富裕層客に照準を定めた戦略を説明し、同行から一戸建て住宅向けローンを借りている客の現金保有額は中央値で68万5000ドルと、平均的な米国民よりはるかに多額だと指摘した。

ファースト・リパブリックはまた、富裕層客を呼び込むためにローンに優遇金利を適用していると公言していた。

同行幹部のロバート・リー・ソーントン氏は昨年11月9日に投資家に対し、「お得意様向けの最優遇金利を利用していただくため、完全なデポジット・リレーションシップ(融資実行の条件として、その銀行に主要な預金口座を開設すること)を当行は望んでいる」と説明。「これが最も力を入れている点であり、これほどの急スピードで預金残高を増やすことができた一因だ」と述べた。

ニューヨーク市の記録によると、同行は2月にマンハッタンのコンドミニアムを買った客に期間30年超、1000万ドルのローンを当初金利4.6%で実行している。これに対し、バンク・オブ・アメリカのウェブサイトを見ると、同行が同じ地区の大型住宅ローンに適用している金利は現在5.5%だ。

セントルイス地区連銀のデータによると、30年物大型住宅ローン金利の全米平均に比べても、ファースト・リパブリックの金利は1―2%ポイント低い。

<客の中にはザッカーバーグ氏も>

ジェームス・ハーバート氏が1985年に創業したファースト・リパブリックは当初、低金利の大型融資に注力していた。2007年にはメリル・リンチに買収されたが、メリルを買収したバンク・オブ・アメリカに売却されて10年に再上場した。

フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏はカリフォルニア州パロアルトの住宅を購入するためにファースト・リパブリックから期間30年、595万ドルのローンを借りたことが、2012年のブルームバーグの記事で分かっている。

ファースト・リパブリックの宣伝資料を見ると、食品宅配アプリ企業、インスタカートの創業者であるアプールバ・メータ氏など、他にもそうそうたる面々が客に名を連ねる。

プライベート・エクイティー(PE)企業、スメル・エクイティー・パートナーズの共同創業者、ランディー・ランドルマン氏はロイターの取材に答え、同社はファースト・リパブリックの優遇金利を利用して成長するハイテク企業に投資するなどしたと説明。「(同行は)われわれのような企業に非常に高いレベルのサービスを提供してくれる」とし、自身は今でも忠実な客だと述べた。

ファースト・リパブリックは富裕層以外を対象とした事業も行っており、同行の資料によると事業向け融資の22%を学校と非営利組織向けが占めている。

<金利上昇>

ファースト・リパブリックの含み損が膨らみ始めたのは、米連邦準備理事会(FRB)がインフレ対応のために急速な利上げに着手した時だった。

年次報告書によると、政府系証券など、主に満期保有目的の資産で構成される投資ポートフォリオの含み損(グロス)は、2021年末に5300万ドルだったのが、昨年末には48億ドルに膨れあがっていた。

政府が介入するか金利が低下するかしない限り、この含み損はファースト・リパブリックを買収する企業によって、もしくは同行自身が流動性確保のために売却することによって実現化せざるを得ない。

年次報告書では、融資ポートフォリオの半分以上は巨額ローンを中心とする一戸建て住宅向けローンで構成されており、他の銀行に売却することは困難だ。

ボストン大学ロースクールのパトリシア・ア・マッコイ教授は「富裕層客は、非常に低い金利で多額の住宅ローンを借りられることが一因でファースト・リパブリックに引きつけられた」と指摘。金利が大幅に上昇した今、こうした低金利の住宅ローン債権は潜在的な買い手企業にとって価値が大幅に下がっており、「大きな負担になる」と語った。

(Lawrence Delevingne記者)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、15日にトルコで直接協議提案 ゼレンス

ビジネス

ECBは利下げ停止すべきとシュナーベル氏、インフレ

ビジネス

FRB、関税の影響が明確になるまで利下げにコミット

ワールド

インドとパキスタン、停戦合意から一夜明け小康 トラ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦闘機を撃墜する「世界初」の映像をウクライナが公開
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 6
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中