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アングル:株主対応助言業が活況、アクティビスト急増で拡大 新規参入も

2023年01月31日(火)11時51分

 日本企業へのアクティビスト(物言う株主)の攻勢が強まっていることを背景に、上場企業の株主対応を支援するサービスが活況だ。写真は東京証券取引所で2016年2月撮影(2023年 ロイター/Issei Kato)

山崎牧子

[東京 31日 ロイター] - 日本企業へのアクティビスト(物言う株主)の攻勢が強まっていることを背景に、上場企業の株主対応を支援するサービスが活況だ。資本政策などを株主目線で検討、説明する必要性が高まり、専門家の助言を仰ぐ企業が増加。この分野への新規参入や事業拡大が相次いでいる。

英大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)の日本におけるコンサルティング部門は昨年末に、株主対応支援サービスを開始。実質株主判明調査から議決権行使シミュレーション、議決権の代理行使の勧誘、経営戦略策定まで包括的に支援する。コンサルタント20人でスタートし、数年後に100人体制を目指す。

コンサル部門のパートナー、篠原学氏は「昔は株主還元一辺倒だったアクティビストの提案が、経営戦略やガバナンスなど本質的な部分にまで踏み込むようになり、企業側も無視できなくなっている」と分析する。

2018年創業の株主対応助言専業クエストハブも、現在20人弱の体制を3年で倍増させる考えだ。株主との対立が先鋭化した有事段階の対応は証券会社などもM&A助言の一環として担っているが、同社は資本政策を含む長期的な経営戦略の策定に力を入れる。最高経営責任者(ⅭEO)の大熊将八氏によると、「東芝と大株主の対立などの報道を受けて、株主価値向上を真摯に検討する企業が増えている」という。

一方、大手信託銀行は、株主名簿の作成管理や議決権行使書の集計などの事務を行う証券代行業務を発展させる形で株主対応支援を拡充する。

三井住友信託銀行はグループ全体で20人の人員を中長期的に30人にする。みずほ証券などと合わせて現在44人体制のみずほ信託銀行は、行内15人の陣容を倍増させる方向だ。80人規模の株主対応専業子会社を持つ三菱UFJ信託銀行も「今後も強化する方針」(広報担当者)という。

海外の助言会社も日本市場での拡大を狙う。これまで国内の提携企業を通じて活動してきたモロー・ソダリは2021年に東京に自社オフィスを開設。「日本市場は我々の関心を引き付ける要素が揃っている」(インターナショナルⅭEOのクリスチャン・シーレイ氏)という。三菱UFJ信託と株主判明調査などで提携するジョージソンも「日本でもっと展開できる」(グローバルⅭEOのキャス・シドロヴィッツ氏)と意気込む。

複数の業界関係者によると、各社が事業強化を急ぐのは、元幹部によるインサイダー取引疑惑などを受けて、この分野で圧倒的首位にあるアイ・アールジャパンから一部の人材が流出し、競合他社で即戦力になっていることも一因という。同社の顧客が他社に乗り換えるケースも出ている。

アイ・アールジャパンの石垣昭之輔副社長はロイターに対し「リーディングカンパニーの責任として日々、アドバイザーとしての能力の向上が求められる中で、常に最新の情報を精査し、革新的なサービスを提供していく」と述べた。

ガバナンス改革に詳しい日本総合研究所の山田英司理事は、隆興する助言ビジネスを過渡期のサービスとみる。「資本市場の言語が分からない企業が多いために需要があるが、執行側が言語を習得するか、リテラシーのある社外取締役がアクティビストに対して方針を説明することができれば、外部機関のサービス利用は限定的になる」と指摘する。

一方、物言う株主として知られるストラテジックキャピタル代表の丸木強氏は、助言料が株主の資産から支払われると強調した上で、「取締役の保身の協力に主眼を置いて低い株価を放置するのではなく、株主価値を向上させる助言をしてほしい」と注文を付けた。

(日本語記事編集:石田仁志)

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