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必要なのは「高圧経済」、引き締めは時期尚早=若田部日銀副総裁

2022年02月03日(木)12時08分

日銀の若田部昌澄副総裁は3日、和歌山県金融経済懇談会(オンライン形式)に出席し、物価目標を達成する前に金融を引き締めるのは、経済回復の腰折れを招きかねず時期尚早だと語った。写真は2019年2月、アイルランドのダブリンで撮影(2022年 ロイター/Clodagh Kilcoyne)

[東京 3日 ロイター] - 日銀の若田部昌澄副総裁は3日、和歌山県金融経済懇談会(オンライン形式)に出席し、賃上げのために今の日本に必要なのは経済の過熱状態を容認する「高圧経済論」だと主張した。その上で、物価目標達成前の金融引き締めは経済回復の腰折れを招きかねず、時期尚早だと語った。

<物価目標の「達成」とは>

若田部副総裁は「1カ月、あるいは数カ月間、消費者物価の前年比上昇率が2%に到達すれば、目標が達成されるというわけではない」と述べ、「基調的な物価上昇率の実績値がある程度の期間2%あるいはそれを超える水準を達成し続けることが必要だ」とした。

昨年12月の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)は前年比プラス0.5%。若田部副総裁は、エネルギーを除くだけでなく携帯電話通信料の引き下げなどの一時的な要因も除いた基調としてみれば、プラス0.7%になっているとした。

携帯通信料の大幅値下げによる下押し効果の剥落で、コアCPIは4月以降、2%に迫る可能性があるとの見方がエコノミストから出ている。

若田部副総裁は、物価目標の達成には中長期のインフレ予想が2%に定着するかどうかが重要になると指摘。「日本では、中長期のインフレ予想はショックに対して反応しており、いまだ2%にアンカーされていない」と述べ、金融緩和の継続が適切な政策対応になるとした。

<今こそ「高圧経済論」が必要>

若田部副総裁は、金融政策の方向感の決め手として、賃金と中長期のインフレ予想が重要との考えを示した。賃金が上がるためには「経済全体の需要が増え経済が温まり、 労働市場が引き締まっていく必要がある」と指摘。かつて米国で唱えられた、経済の過熱状態を容認する「高圧経済論」を引用して「今の日本でこそ、高圧経済論を必要としている」と語った。

その上で「企業が価格を上げることができ、それによって賃金や投資が増え、賃金を受け取った家計が消費支出に回していくという良い循環を作ることが必要だ」と述べた。

<「悪い円安」論に反論>

若田部副総裁はあいさつで、昨今の「悪い円安」論に反論した。まず、交易条件悪化の要因の大部分は「外貨建てでみた原油などの輸入価格の上昇によるもので、為替の影響は相対的に小さめ」と指摘した。原油高は、石油ショックのような事態を除けば世界経済の回復局面で生じるとし「交易条件が悪化する時期には企業収益は改善する傾向にある」と述べた。

実質実効為替レートを「国力」の指標ととらえる議論に対しては「順調に経済が成長している米国やドイツなどの国の実質実効為替レートには特定の傾向がみられない」と反論した。

(和田崇彦)

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