ニュース速報

ビジネス

焦点:米ベンチャー投資家が半導体に熱視線 AI用需要で人気復活

2021年05月10日(月)11時22分

 これまでソフトウエアやインターネット企業に的を絞っていた米シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)が、半導体産業への投資を再開しつつある。写真はグロックの製品。撮影日不明。提供写真(2021年 ロイター/Courtesy of Groq)

[オークランド(米カリフォルニア州) 5日 ロイター] - これまでソフトウエアやインターネット企業に的を絞っていた米シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)が、半導体産業への投資を再開しつつある。インテルやエヌビディアのような既存企業に対抗できる新世代の人工知能(AI)チップに期待してのことだ。

こうした動きは、自動車産業などを現在悩ませている古い技術に基づく半導体の不足を解消するものではない。この問題は、自動車メーカーが消費者向け電子機器産業と半導体の獲得競争を繰り広げる中、複合的な要因に根差しているからだ。

半導体新興企業に対する投資熱は、AIソフトウエアを利用する企業の半導体ニーズによるところが大きい。こうした企業が求めるのは、膨大なデータを必要とする機械学習アルゴリズムを効率的に実行できる特殊なプロセッサーだ。

サンバノバ・システムズやグロック、セレブラス・システムズなどの新興の半導体メーカーはいずれも、エヌビディアのプロセッサーよりもAI向けのタスクを効率的に実行できるチップを作っていると胸を張る。もともとビデオゲーム用に作られたエヌビディアの多目的グラフィック・チップは現在、AI向け半導体市場を支配している。

セレブラス・システムズの共同創業者であるアンドリュー・フェルドマン最高経営責任者(CEO)は「車に例えるなら、子供たちをサッカーの練習に連れて行ったり、貨物やレンガ、ごみを運んだりするのに適していながら、同時に運転して楽しい車種があるだろうか。答えはノーだ」と話す。つまりAIアルゴリズムには、複数の目的に対応できる半導体ではなく特殊な半導体が必要だということだ。

セレブラスは、2兆6000億個のトランジスタを搭載した切手の56倍の大きさの超大型チップを開発した。

ガートナーのアナリスト、アラン・プリーストリー氏が確認した範囲では、AI用に特化したチップを開発している企業は現在50社を超えており、もっと多い可能性もある。同氏は、2020年に230億ドル(約2兆5000億円)だった市場規模が、2025年には700億ドル以上になると予想している。

データ企業ピッチブックによると、米国の半導体新興企業へのベンチャーキャピタル投資は昨年18億ドルと、少なくとも20年ぶりの高水準となった。今年の投資額はすでに14億ドルに達している。

サンバノバは再構成可能AIチップを開発しており、同社によると4月の資金調達ラウンドだけでも6億7600万ドルを確保した。また、高速でプログラムしやすい超強力なシングルコア設計を誇るグロックは、3億ドルを調達したと発表した。両社のCEOはロイターに対し、投資家の関心が高かったため調達額が予定を上回ったと述べた。

バッテリー・ベンチャーズやベスマー・ベンチャー・パートナーズ、ファウンデーション・キャピタルなど、もっぱらソフトウエアに特化してきたVCが今、こうした新手の半導体企業に関心を寄せ始めている。ピッチブックのアナリスト、ブレンダン・バーク氏によると、これら3社は過去2年間で最も積極的に半導体産業に投資した企業の一角を占める。

バッテリー・ベンチャーズのゼネラルパートナー、ダーメシュ・サッカー氏は数年前、自社が投資しているAIソフトウエア企業がすべてエヌビディアと提携していることに気付き、半導体投資を検討し始めた。

「AIを取り巻く世界は大きく、第2のエヌビディアを作るチャンスかもしれないぞ」と考えたのだ。

ベスマー・ベンチャー・パートナーズとファウンデーション・キャピタルはコメントの要請に応じなかった。

エヌビディアのアクセラレーテッド・コンピューティング担当ゼネラルマネージャー、イアン・バック氏は、同社がAI用半導体を巡る競争で先頭を走り続けられるとの自信を示した。同社のGPU(画像処理用プロセッサー)は過去7年間、AIソフトウエアのニーズに合わせて進化してきており、AIを扱うために特別に設計されたチップもある。

<補助金が後押し>

VC企業、プレイグラウンド・グローバルのゼネラルパートナー、ピーター・バレット氏は、最先端の半導体の材料や技術がAI以外の分野でも技術革新を促していると言う。一例として、素粒子を使って情報の保存と処理を行う新技術、量子コンピューター用のチップを挙げた。

折しも米政府は、国内の半導体産業を支援するために新しい補助金制度を最終決定しようとしている。グロックの新任取締役で、数十年にわたって半導体投資に携わってきたアンディ・ラパポート氏は、地政学的な不安定さと米中間の競争を背景に、VCは半導体設計会社だけでなく半導体製造企業の投資にまで手を伸ばす可能性があると考えている。「連邦政府がリターンを補助し、リスクを引き受けてくれるとなれば、半導体製造企業に投資するVCが出現するシナリオも現実味を増す」

そうなれば、一回りして半導体設計企業への投資がさらに喚起される可能性もある。

2011年にAI関連企業ナノトロニクスを創業したマシュー・パットマン氏は、AI用半導体の開発が進んだことによって半導体の製造コストが下がり、皮肉にも半導体製造企業の起業に再び門戸が開かれたと話す。

同社は初期に著名投資家ピーター・ティール氏のファウンダーズ・ファンドからの投資を確保し、その後2019年までに約9000万ドルを調達した。パットマン氏はもう、資金調達について気をもむこともなくなった。

「2013年や14年なら、アプリやSaaS(必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウエア)を持たずに投資家を訪ねたら、文字通り受け付けさえ通してもらえなかっただろう」とパットマン氏。ファウンダーズ・ファンドから出資を受けた後でさえそうした状態が続いたが「今では様変わりだ」と語った。

(Jane Lanhee Lee記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独産業界、グリーンランド領有巡る米関税計画に反発

ワールド

米最高裁、クックFRB理事の解任巡る訴訟で21日に

ビジネス

訂正-中国鉱工業生産、12月は5.2%増に加速 小

ビジネス

消費税減税、選択肢として排除されていない=木原官房
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 2
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 3
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」も子に受け継がれ、体質や発症リスクに影響 群馬大グループが発表
  • 4
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 5
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    「リラックス」は体を壊す...ケガを防ぐ「しなやかな…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 10
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中