ニュース速報

ビジネス

アングル:数百万の失業者をどう救う、次期米大統領を待つ難問

2020年10月31日(土)08時08分

写真はドナルド・ハーパーさん。本人提供(2020年 ロイター)

[28日 ロイター] - 米大統領選で共和党のトランプ大統領、民主党のバイデン前副大統領のどちらが勝つにせよ、勝者はコロナ禍で職を失ったままの中低所得者層への対応という、数十年かかるかもしれない長期的な課題に直面することになる。

現実は厳しい。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)の最中に失業した米国民2200万人のうち、約半分が未だに仕事に復帰できていない。

新規採用の動きは鈍く、最も打撃の大きかった低賃金労働者の前途は暗い。これまでに米国民22万5000人以上の命を奪った新型コロナの感染者数は再び拡大に向かい、過去最多に達している。ホテル、運輸、食品供給などの企業は、従業員の解雇をさらに進める必要が生じると警告。多くの失業者が食いつなげるよう政府が差し伸べた支援制度はとっくに終了している。

クリントン政権で通貨監督庁長官を務めたジーン・ラドウィグ氏は、拡大する多数の低生活水準の層の将来を約束することが「米国が今後数年、10年、20年に直面する最も重要な課題だ」と言う。同氏は著書「消えゆくアメリカンドリーム」で中低所得者の経済的苦境を描いた。

「これほど多くの中低所得者がアメリカンドリームの希望を持てず、まともな暮らしも送れないようでは、民主的な社会は維持できない」とラドウィグ氏は話した。

議会民主党とトランプ政権は、コロナ禍に対応した2兆ドル規模の追加経済対策法案を巡り協議してきたが、共和党上院議員の多くが規模に異議を唱え、追加対策の必要性も疑問視している。このため成立は来年初めにずれ込む可能性もある。

<底を突く貯金>

それでは手遅れになる人々もいる。

コロンビア大貧困・社会政策センターの調査によると、「コロナウイルス支援・救済・経済保障法」(CARES法)により、現金の直接給付と併せて失業保険給付が週600ドル(約6万3000円)上乗せされていたおかげで、4月は失業率が急上昇したにもかかわらず、多くの米国民が貧困状態を回避できていた。

JPモルガン・チェース・インスティテュートの分析によると、上乗せの失業保険給付を受けた人々は支出を増やしたり、貯金に回したり、借金を返済したりすることができた。

しかし、7月末で給付拡充が失効すると、貧困率は再び上昇。コロンビア大調査では、2月には15%だったが、9月には再び上昇し16.7%になった。ここ10年減少していた飢餓に苦しむ人の数も全米規模で増えている。

リサンドラ・ボニラさん(46)は3月末頃にフロリダ州の雇用機関を一時解雇された後、拡充された失業保険の約3分の1を貯金に回してきた。「この先どうなるか分からなかったから、たくさん貯金した」

これは賢い計画だった。週800ドルを超えていた彼女の失業受給額は、8月に税引き前でフロリダ州では上限の275ドルに減額された。

ボニラさんは9月末頃にパートタイムで職に復帰できたが、生活費の支払いに苦労。12月までに貯金が底を突くことを怖れている。すぐにもフルタイム勤務に戻れなければ、もう一つ仕事を探さなければならない。

ブルッキングス研究所のシニアフェロー、ウェンディー・エデルバーグ氏は「われわれは穴から抜け出そうともがいているが、これと同時進行する形で穴がますます大きくなっている状況だ」と語る。

同氏は2つの要因を特に心配している。1つは、3月から真夏にかけて通常のペースの3倍を超える推計42万以上の零細事業がつぶれたこと。もう1つは、恒久的な解雇が増えており、2月に130万人だったのが9月には380万人に達したこと。これはリーマン・ショックだった2008年の大統領選前の水準に近い。

<長期失業の罠>

ベテランのシェフだったドナルド・ハーパーさん(55)は、3月に一時解雇されてから50を超える就職面接を受けた。

直近はオーランドのリゾートで5つのレストランを掛け持ちで担当していたが、客の戻りが鈍いため、いつ復帰できるか分からない。

スーパーマーケットから介護まで、さまざまな職に応募したが実りはなかった。

「なんだってやるつもりだ」。教会の司教の仕事もするハーパーさんは言う。週275ドルの失業保険では食費と光熱代を支払うのもやっとで、月1900ドルの家賃は3カ月滞納している。

10歳と13歳の子供と暮らすハーパーさん。「ホームレスにはなりたくない」と20以上の団体に家賃支援を求めたが、成果はない。

27週間以上失業している「長期」失業者は米国に240万人おり、その数はさらに増えている。全員を仕事に復帰させることが重要だが、エコノミストによると、こうした失業者は労働市場から脱落するか、より賃金の低い職に就かざるを得なくなるリスクが高くなる。

労働エコノミストによると、失業者と低賃金労働者は現在、連邦政府の雇用・職業再訓練プログラムと併せ、家賃支援や現金の直接給付、食料支援を必要としている。

バイデン前副大統領は、当選すれば連邦最低賃金を引き上げ、インフラおよびグリーンエネルギー(環境に優しいエネルギー)事業のプログラムに数兆ドルを投じると約束している。しかし、そのためには議会の承認が必要だ。

トランプ氏は追加経済対策への支持は示唆しているが、雇用に関してはバイデン氏ほど具体策を示していない。

助けが到着するまで、労働者は苦難を強いられる。

フロリダ州でシングルマザーとして3人の子供を育てるレイチェル・アルバレズさん(44)は今週、レストランの給仕という新たな職に就いた。3月に失業して以来、初めての勤務だ。

コロナ禍で景気が悪いため、チップ頼みのレストラン従業員は稼ぎが良くないとアルバレズさんは言う。6月から家賃も払っておらず、郡政府に助成を申請したが返事はまだない。

「私は前を向き続ける。もしも子供たちがこんなひどい目に遭うことがあったとしても、やっぱり前を向いてほしいから」

(Jonnelle Marte記者)

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金与正氏、日米韓の軍事訓練けん制 対抗措置

ワールド

ネパール、暫定首相にカルキ元最高裁長官 来年3月総

ワールド

ルイジアナ州に州兵1000人派遣か、国防総省が計画

ワールド

中国軍、南シナ海巡りフィリピンけん制 日米比が合同
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中