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焦点:キャッシュレス払い定着なるか 生産性改革のカギに 

2019年11月01日(金)15時22分

 11月1日、消費税率引き上げを契機にキャシュレス決済の勢いが増しつつある。ポイント還元など政府の施策もあり、利用者拡大は順調だ。背景には、労働力減少を補う生産性向上への政府の危機感がある。写真は都内で10月撮影(2019年 ロイター/Tetsushi Kajimoto)

中川泉 梶本哲史 清水律子

[東京 1日 ロイター] - 消費税率引き上げを契機にキャシュレス決済の勢いが増しつつある。ポイント還元など政府の施策もあり、利用者拡大は順調だ。背景には、労働力減少を補う生産性向上への政府の危機感がある。支払いの迅速化と消費拡大、訪日客の決済利便性、データ活用による新商品開発など、キャッシュレス化を契機に流通・小売の課題解消が期待されている。ただ消費の現場からは、現金信仰の強い日本で電子決済が定着するか不透明、との声も出ている。

<1日10億円、キャッシュレス比率30%に迫る>

QRアプリを手掛けるPayPay(ペイペイ)では、10月1日時点で会員数が1500万人に達した。8月上旬から10月1日までのおよそ2カ月で500万人増加した。増税に先駆けて一気に拡大したという。

急速拡大の背景には、独自のポイント還元や、店側の手数料を21年9月まで無料とするキャンペーンのほか、売掛金を嫌う日銭商売の小売店のために翌々営業日での売上金振り込みを実施していることがある。

同社事業推進室・柳瀬将良室長は「ビジネスの継続性を確保するためにはコストを下げることに尽きる。今は普及段階なので赤字覚悟でやっている」と語り、全国での導入店舗拡大に力を入れている。

JR東日本<9020.T>の扱うSuicaなど決済カードの会員数は、10月20日時点で1128万人。8月までは月に3─4万人の増加ペースだったが、9・10月の2カ月での増加分は100万人超。鉄道乗車でのポイント付与を始めたほか、政府によるポイント還元施策が始まったことが大きいという。

さらに小銭不要の支払いは消費者にとっても店舗にとっても便利だ。祖山智幸・IT・Suica事業本部・決済事業部次長は「現金払いという習慣を変えるための1つの大きな要素が、利便性だと思う」と述べている。

経済産業省によると、ポイント還元制度には11月1日現在、対象店舗約200万店に対し64万店が参加しており、11日には73万店に拡大する見通し。還元額は1日平均約10億円強(10月1日から21日の平均)となっており、今年度予算の上積みが検討されるほど「順調な滑り出し」(キャッシュレス推進室)となっている。

売上に占めるキャッシュレス決済の比率は、例えばローソン<2651.T>の場合、10月中で概ね25%程度、30%台に迫る勢いだという。ただ2015年当時のデータでも、中国は60%、米欧など他の先進国は50%前後。それに比べると、日本の比率はまだかなり低い。

<脱・現金で狙う生産性改革>

政府がキャッシュレス決済を強力に支援する背景には、非製造業の生産性改革という狙いがある。

経済産業省は、その目的は「小売業の効率化、そして生産性の向上」(キャッシュレス推進室)だと言い切る。

18年4月に同省がまとめた「キャッシュレスビジョン」では、「労働者人口減少の時代を迎え、国の生産性向上は喫緊の課題」と、その狙いを掲げている。店舗などの無人化・省力化のほか、年間1兆円と言われるレジの現金取り扱いコストの節約と、平均4時間のレジ労働時間の削減を、他の付加価値の高い仕事へ振り替えようというものだ。小売やサービス分野での生産性への寄与は大きいとみている。

実際に消費の現場ではメリットを感じている企業もある。ローソンの金融・デジタル事業本部の熊谷智・執行役員は「現金ハンドリングのオペレーションや外国人客の支払い対応が楽になるほか、後払いにより客単価が上がっている効果もある」と、実際に消費の現場でのメリットを指摘する。

<ビジネスモデルに課題>

ただ政府の狙い通りに脱・現金が生産性の向上に寄与するのかは、今のところ未知数だ。

JR東日本ではSuicaのような移動データなどプライバシーにつながるデータの活用は「考えていない」としている。

paypayでは、親会社であるヤフー・ジャパンのインターネットサイト広告への活用が視野に入る。さらにその先、生活全般にわたるサービスの展開を構想中だ。すでに公共料金支払いサービスには参入。加えて金融サービス、貯蓄・投資、チケットなどのサービスといった生活ツール全般にわたる事業との連携を想定、「提携先と一緒に利益をわかちあう形のビジネスを想定している」(柳瀬氏)という。

ただそのためには、payapayが広く支払手段として定着し、同社と提携することが大きなメリットと企業に感じてもらうことが前提だ。

従来から「Pontaカード」発行による会員組織を持つローソンでは、性別や年代といった属性と購買動向のビッグデータを、売上予想や新商品の開発、流通の効率化などに活用してきた実績があり、データ活用の効果は大きいとしている。

それでも「まだ決済のスタンダードは混とんとしている。現金信仰の強い日本でどの程度キャッシュレス決済が定着するかは不透明だ」(熊谷氏)として、現金も含めて消費者のニーズに合わせた決済手段の提供を判断していく姿勢を示している。

(編集:佐々木美和)

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